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RK-080 超変身 常駐オペレーション パワー2 ノーマル 追加条件 常駐 自軍スタートフェイズを終えるとき、 一度だけ自分の手札から特徴「アマダム」を持つユニットカードを好きな枚数選び、 相手に見せてからこれに重ねて置いてもよい。そうしたとき、手札から置いた枚数ドローする。 自軍ラッシュフェイズに重ねたカードから1枚選び、 本来の特徴に「アマダム」を持つ自軍ユニットと置き換えてもよい。 (必要パワーと追加条件は満たすこと) これが常駐置き場を離れるとき、重ねたカードはすべて捨札になる。 ミスティックアームズ 仮面ライダークウガ フレーバーテキスト 自分の涙は仮面の裏側に隠し、心優しき戦士は起つ。全ては、誰かの笑顔のために。 備考・解説 クウガ版ライダーパスとも言うべきカード。 しかしこれはドロー加速にもなるため効果はそれ以上。 イラスト 村上ヒサシ 収録エクスパンション THE MASKED RIDER EXPANSION vol.2自販機&パック 関連カード Q&A Q: A:
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赤く熱い鼓動(後編) ◆gry038wOvE △ 「おい、あれが……杏子かよ」 窓の外から漏れる強力な光が止むと、そこには全く別の色へと変わったネクサスがいた。 この遠距離からでもその姿はよく見えている。ネクサスの色はかつて翔太郎たちが見たジュネッスとは少しばかり違っていた。 かつての姫矢とはまた違った、『命の光』。 同じ赤でありながら、それは微妙に違った色の輝きを示している。 そう、命の色はそれぞれ違う。 十人十色。誰もが違った色を持ち、誰もが違ったものに運命を惹かれるのだ。 「……すげえ」 翔太郎は幾つかの感想を口に出そうとしたが、そうとしか言いようがなかった。語彙が無いのではない。本当に素晴らしいものを見た時、人はそれを上手く形容する文句など考えようともせず、ただ目の前の出来事に心惹かれるのだ。 それはまさに彼女が築いてきた絆の姿だった。 姫矢のジュネッスと同じ力。せつなのキュアパッションと同じカラー。あらゆる人が繋いだ彼女の命。それが全て、あの光の中に在る。 翔太郎自身もまた、彼女の命を繋いでいた一人だから、より強い感動があったのだろう。 『翔太郎、僕にも見せてくれないか』 「ああ……ちょっと待ってな」 翔太郎はジョーカーメモリを取り出した。 戦うわけではないが、それでもこの姿をフィリップに見せてやろうと思ったのである。 メモリの電子音が鳴る箇所を少し抑え、なるべくドウコクに聞こえないようにしながら、翔太郎はメモリのボタンを押す。 ──じょぉかぁ……(←小声)── 「『変身(←小声)』」 ──Cyclone × Joker!!── 「こらっ、ちょっ、うるせえ!」 翔太郎は電子音とBGMにキレてドライバーを軽く叩いた。しかし、どうやら向こうは向こうでネクサスに気を取られているようで、辛うじてこちらに気づいていないようである。ともかく、仮面ライダーダブルとなった二人は、再び窓の外を見る。 その景色は、すぐにフィリップにも伝わった。ネクサスはパッションレッドの光を放ち、ドウコクと対峙している。 『……翔太郎』 「どうだ? あれを見た感想は?」 翔太郎は、おおよそフィリップがどんな感想を述べるか、予想がついていた。 翔太郎はフィリップが薄く笑ったのを感じた。 『ゾクゾクするねぇ』 △ ドウコクは目の前の戦士を見てどう思っただろうか。 薄皮太夫の三味線の音に惹かれた彼ならば、少しは何か心を動かされるものがあっただろうか。 敵の姿がより強力なものへと変わったというのに、そこに脅威を感じるというより、むしろ骨抜きにされたように見つめていた。 それは戦うためだけの姿ではなかったのである。 確かに逞しく進化し、豊富な技を持つ戦士であったが、同時にその姿は一人の人間の生を表現した芸術であった。体を駆け巡る血流のようなラインは、哺乳類の血管だけでなく、万物の体に流れる繊維や、あるいは各々の感情でも体現しているかのようだった。 彼女はあらゆる生を食らい、今ここに生きている。 彼女の命を繋いできた糧も、命を賭して彼女に生を与えてきた人々の思いも、或いはこの体の中にあったかもしれない。それが彼女と、彼女を支えてきた人たちの絆だ。 「……なんだよ、それは」 少なくとも、ドウコクから発された言葉は、翔太郎と同じく簡素なものだった。 感動したようには見えなかった。 この光には、ドウコクが望む感情はなかった。孤独がなく、恨みもない。太夫の三味線とは違ったのだろうか。 ──これは、あたしたちの絆……あたしたちのウルトラマンだ……── その名を、杏子は初めて呼んだ。 かつて、孤門がこの姿を見て、思わずウルトラマンと呼んだように、杏子はいま、この巨人に自然とウルトラマンという名前があるのだと感じたのだ。 しかし、あまりにも自然に言葉が出たため、杏子自身が、自分の呼んだ名前に気づいているかも曖昧だった。 「……ウルトラマン? そいつはそんな名前なのか。まあいい。……ここからは、戦いを愉しませろよ。敗走は無しだぜ」 ネクサスはドウコクの言葉に頷き、右手を前に突き出し、腰を落として構えた。 二人の距離は約二十メートル。 二人は同時に駆け出し、その距離は一瞬にしてゼロになる。 ドウコクが右上から、ネクサスに向けて剣を振るう。ネクサスはそれを右に避け、ドウコクの顎を砕くジュネッスパンチを放った。 ドウコクの身体が吹き飛び、瓦礫の山へと堕ちていく。何かの角がドウコクの身体へと突き刺された。ガラス片の数も多く、ここに落ちるという事は、もし人間ならば危険極まりない話だった。 「デュアッ!」 ネクサスはその場からドウコクを引きはがすようにして起こした。 しかし、ドウコクを助けるためではない。乱暴に放り投げ、後退したドウコクに向けてネクサスは何発ものパンチを決めた。 その痛みや衝撃は、無論アンファンスパンチの比ではない。 再び、ドウコクは二三歩後退した。よろよろと後退しながらも戦闘の意思は消えず、左手はネクサスの身体目がけて大量のガラス片を投げた。さきほど倒れた時に掴んでいたのだろう。 「デュアァッ!」 ネクサスの身体は、不意の攻撃に目をくらませる。 ガラス片など、ネクサスの身体に効くはずもないが、本能的に避けたのだろう。杏子自身、その時ばかりは「危ない」と思ったに違いない。顔の前に両手を掲げて、目にガラス片が入らないように構えたのである。 「やってくれやがったな!」 その瞬間を狙い、ドウコクはこの距離からネクサスを斬る型を取る。 刃を振るった瞬間、降竜蓋世刀の先から衝撃が発生し、ネクサスの身体に深い一撃を与えた。 斬れるはずもないのに斬れる──それは、鎌鼬(カマイタチ)というやつに酷似していた。それはまるで、至近距離で鋭利な刃物で斬られるのと同じほどの威力を持っていた。衝撃波か鎌鼬か……厳密にはわからないが、それは風に乗るように真っ直ぐに進み、ネクサスの身体を傷つけるのである。 「デュアァァァ……!!」 <痛み>の声を発しながら、ネクサスもまた何歩か後退する。手の上に少し残っていた粉々のガラス片が落ちていく。 真後ろには風都タワーの跡があったが、ネクサスはその数歩前で動きを止めた。 「……俺の番だ!!」 再び、ドウコクは刀を虚空で振るう。今度は二度──×印を描くように刀を振るい、×印の衝撃がネクサスへと高速で進行した。常人ならば避ける術はないかもしれない。 それでも、ネクサスは既に超人である。 地面を強く蹴り、高く跳ぶ。 ドウコクの鎌鼬は、後方で風都タワーの残骸の中を深く掘り進め、×印の穴を作り出した。そして、最後には真後ろにあった風車の欠片を四つに裁断して衝撃は消え去る。 風車は大きく音を立てて崩れたが、ドウコクはそんな事を気にも留めなかった。 ネクサスは上空から、まるで仮面ライダーのように蹴りを放とうとしていた。 仮面ライダーダブルから着想を得た両足での蹴りは、真っ直ぐにドウコクの身体に向かっていく。無論、身体が半分に避けるような事はないが、それでも右足を曲げて、左足から順に蹴飛ばそうとしていた。 滑り台でも降りるかのように下降していくネクサスであったが、ドウコクがそれに気づかない筈はない。 刀を構え、真正面からそれを抑え込もうとしていた。 しかし──── 「何ィッ!?」 ────ドウコクの背中で、何発かの弾丸が爆ぜ、バランスが崩れた。 何事かと咄嗟に後ろを見る。すると、数百メートルほど離れた建物の窓から仮面ライダーダブル・ルナトリガーが顔を覗かせていた。 いないと思っていたら、あんなところにいた。彼が弾丸を放ったのだ。 「折角俺たちの技をやってくれようっていうんだ。邪魔されちゃ困るからな」 『……杏子ちゃん版ジョーカーエクストリーム。ゾクゾクするねぇ』 ここにいるネクサスとドウコクには聞こえないが、建物の中で二人はそう言っていた。 それに気を取られてしまった自分を嘆きながら、ドウコクはまた正面を向く。 次に後ろから攻撃を受けるとしても、無視を決め込む覚悟を決めながら── だが、時、既に遅し。 振り向いた瞬間に、ドウコクの右胸をネクサスの左足が押し出し、すぐに左胸を右足が突き出した。タイミングが難しいところだが、上手い具合にネクサスの両足はドウコクの身体にヒットする。 「デュアアアアアアアアアッッッ!!!!!」 ジュネッスキックにジョーカーエクストリームのエッセンスを交えた一撃に、ドウコクは何歩も後退する。ふらついただけではなく、距離を置きたいと思ったのだ。 それはまたネクサスの怒涛の攻撃の好機を作り出した。 ネクサスの右手が身体の前へと突き出される。 それに交差させるように左手が突き出される。 それを崩して両手を上げ、身体全体でY字を作り出す。 「……くそっ!!」 ネクサスへと刀一本で向かっていこうとするドウコクであったが、野望は叶わなかった。 その一歩手前で、ネクサスの両腕は、あらゆるウルトラマンたちが使う光線技のように、L字型に組まれたのである。 それは、姫矢のジュネッスと同じく──杏子のジュネッスパッションがオーバーレイ・シュトロームが放つ瞬間であった。 光のエネルギーがネクサスの両手から放たれる。 その攻撃は自分に向かってきたドウコクを、どこまでも押し出していく。まるで、川の流れに巻き込まれたように、ドウコクは声にならない声を発しながら後ろに向かって流れていく。 △ 「……なあ、フィリップ。ちょっと待ってくれ。……これはどういう事だ?」 名もなき建物で、仮面ライダーダブル──というより、翔太郎は状況が飲み込めずにいた。 ドウコクがこちらに向かってきている。──いや、ネクサスが放った光線がこちらに向かってきている。 まるで増水した川があらゆるものを巻き込んでこちらに流れてくるように。 しかし、あまりの出来事に翔太郎はキョトンとしてしまい、冷静にフィリップに訊いた。いや、冷静というより、混乱しているのだろう。一方フィリップは冷静だった。 『待てないよ、翔太郎』 「だよな?」 危険であるのを再確認する。 『早く逃げないと、この建物ごと消えてなくなるよ。ドウコクと一緒にね。あっ、後ろにはドアがないから、あのドアから逃げるといい』 「だよな、だよなだよなだよなだよな……!? 逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 『いいから早く逃げてよ、翔太郎』 ダブルは、身体の節々の痛みさえ忘れて、ドアを蹴破ってすぐに右に飛んだ。火事場の馬鹿力という奴か。 ドアに向かうという事は光線が出ている方向に突き進んでいくという事だったが、フィリップの冷静な判断によってうまい具合にそこから飛んだ。光線から逃れようとして逆方向に逃げたら、それこそ逃げ場がない。 かなりギリギリのタイミングで飛んだらしく、ダブルが先ほどまでいた場所はあっさり光線に飲み込まれた。 ネクサスが発したオーバーレイ・シュトロームはそのまま濁流のようにドウコクを巻き込んで真っ直ぐ進み、翔太郎が先ほどまでいた建物を飲み込んでいく。あの中にいたら、光に巻き込まれる。 しかも、翔太郎がかなり重い怪我人である事を考えれば、大ダメージ。そこに建物でも倒壊すれば偉い事になるだろう。 少し、我を忘れて放心した後── 「杏子このやろおおおおおおおおおおおおお!!!!」 ──翔太郎が杏子に対する恨みの念を叫ぶ。 一方のドウコクはどうやらそこで背中を打ったらしく、壁にぶつかるたびに「ごぇっ!」とか「ぐぇっ!」とかそんな声を発していた。流石にドウコクも不憫に思えてきたが、自業自得というやつである。 そのまま、あっさりと先ほどまでの建物は突き破られ、ドウコクは既に視界の果てに消えた。小さな悲鳴も聞こえないほど遠くへと消えると、そのまま建物も音を立てて、予想通り倒壊した。 ダブルは地面に転がり、起き上がろうとするが……。 「……って、痛えええええええええええええええええええええええっっ!!! 死ぬ、死ぬ! ギブッ!! ギブッ!! 胸ェェェェ!! 胸ッ!! 胸ッ!! 胸ェェェェェッ!!」 どうやら胸骨のあたりに罅でも入っていたらしい。 それが、地面に派手にダイブしたせいもあって、罅を大きくしたのだろうか。 起き上がろうとした瞬間、かなりの激痛が走ったようだった。 『翔太郎。無理に起き上がらない方が良さそうだね』 「起き上がるなって……そんな事言われても……」 『……じゃあ、胸って叫び続けるかい? 探偵事務所より刑務所がお好みなら、それでもいいと思うけどね』 「……くそっ……杏子のやつ……。痛ぇ……」 すぐにダブルは変身を解いて、胸を抑える。 身体を曲げるとかなり痛いようだった。……これは、折れてる。間違いない。 △ 「……ハァ……ハァ……」 ネクサスの変身を解除した杏子も、肩で息をしているような状態だった。 実際、ネクサスへの変身は結構な負担がかかるもので、特にオーバーレイ・シュトロームの使用には多大な負担がかかる。 しかし、杏子は久々に誇らしい事をした気分になっていた。 多くの人の支えが、自分の中に在るような気がしたのだ。自分を支えるたくさんの人々の事を思い出すと、やはりその助けのお蔭で自分が生きていると実感できた。 「……あー、あの兄ちゃん無事かな?」 終わってみると、やたらと冷静に頭が回った。変な虚無感もあったが、とにかくやり遂げた悦びも胸にあった。 ふと、目の前の建物が派手に倒壊している事に気づき、杏子はてくてくとそちらに歩いていく。これもまあ、先ほどまで戦っていたとは思えない姿だ。彼女自身、微かに混乱しているのかもしれない。 風都タワーと同じく、根っこのバランスを保ちきれずに倒壊。何階建てだったかはわからないが、最上階が一階か二階あたりの位置にまで落ちて、原形がなくなっていた。 「あちゃー……あーあ、こりゃ完全に死んだな。あんたは本当に良い半熟兄ちゃんだったよ。安らかに眠れ。アーメン」 杏子は久々に胸の前で十字を切って目を瞑り、両手を重ねる。 ちょっと悲惨な墓だが、遺体を掘り出す事はできない。 「ちょと待て、杏子! あちゃー……じゃねえよ! 生きてるから! 俺、生きてるから! って胸ェェェェェ!! 痛ェェェェェッッ!!!」 杏子が横を向いてみると、面白い人が倒れていた。 左翔太郎だ。杏子は、流石に翔太郎を殺すつもりではないので、翔太郎が生存している事くらいは気づいていた。それを見越したうえでのお茶目な冗談である。 ある程度の信頼を向けてオーバーレイ・シュトロームを打ったので、翔太郎は避けているだろうと思ったのだ。多少痛いのは我慢してほしい。 「……なんだ、生きてたのか」 口から出たのはわざとらしい言葉だったが、翔太郎は先ほど胸を地面に打ち付けたのが相当こたえたらしい。 胸を下にして倒れたまま、右手を開いて、杏子の前に向けている。さながらゾンビのようである。 「はぁ……はぁ……胸……胸……胸…………」 「……」 「胸が……」 「……」 「杏子……胸……胸が……」 「……やっぱ死んだ方がよかったかもな」 哀れ翔太郎。胸が痛いだけだというのに、突然変質者になったと勘違いされ、愛想を尽かされた。 杏子としても、自分の胸が狙われているような気がしてならなかったのだ。 そういえば、彼の知り合いに井坂とかいう変態風な紳士がいたが、彼も仲間だったのだろうか。 杏子は翔太郎を見るのをやめ、プイと後ろを振り向いて歩き出した。 「あーっ!! ちょっと待て! 杏子! 胸が痛くて起き上がれねえんだよ! お前の水平線じゃない、お・れ・の・む・ね!! 力を貸してくれ、杏子! ……痛ェェェ!!」 『……翔太郎。ちゃんとそう言わないと伝わらないよ』 流石にフィリップも呆れたらしいが、それで杏子には伝わった。一瞬、失礼な事を言われた気がしたが、無視する。 「……ったく」 杏子は仕方がなさそうに、翔太郎の身体をひっくり返し、お姫様抱っこする。 体格は大きく違ったので、流石に重く感じたが、辛うじて可能だった。すぐに腕が釣りそうになったものの、三秒で下してしまうのも意地が許さない。 「……これで大丈夫か?」 「ちょっと待て……プリンセス・ホールド? いくらなんでもこれは無えだろ!! げほっ!」 『……翔太郎。いま、お姫様抱っこされているのかい? ウルトラみっともないよ』 「ウルトラは余計だ! ……っつーか、みっともないも余計だろ!!」 しかし、当の翔太郎が自力で起き上がれないのだから仕方ない。 これでも胸が曲がっているので多少は痛むが、最も安定した姿勢である。背中に背負ってしまうと、翔太郎の胸は杏子の背中にぶつかり、場合によっては相当痛む可能性がある。 杏子は、かなり意地になって歩き出した。ものすごく重いと感じつつも、その重みに歪んでいる顔を帽子が隠している。 (重っ……! どうすんだよコレ……!) 前にも運んだ事があったが、あの時は背中におぶって翔太郎の足を引きずりながら歩いた分マシかもしれない。 今は、翔太郎の全身が杏子の両腕に支えられている。魔法少女にでも変身しない限り、この体制はキツいように思えた。 「……てか、オイ杏子。あの赤鬼野郎どうした?」 「わかんねえ……! わかんねえ……! けど……!」 「流石に死んだか?」 「死んでない……! と思う……! でも……! 流石に……! これ以上……! 追うのは……! 無理だわ……! それに……! 向こうも……! 限界だろ……!」 ドウコクは倒壊した名もなき建物の向こう側にいる。確認は不可能だ。 それはそれとして、杏子がかなり辛そうな様子なのが感じられた。文節ごとに根性を振り絞るみたいな声を出している。むしろ、それが気になって杏子が何を言ってるのか聞き取るのさえ億劫だ。 明らかに無理をしているのが、他の全員に伝わる。 「……」 「……」 『……』 「……ふんぬっ! ……はぁっ……!」 「……」 「……」 『……』 「……はぁ……! ……ぐっ……!」 押し黙った状態で、荒れ始めた杏子の息を聞きながら、彼らは歩いている。 翔太郎、杏子、フィリップ、ザルバ……それから、一応その他もろもろ。 それなりに頑張っているものの、やはり辛そうなのが感じられる。 杏子自体、戦った後に成人男性をお姫様抱っこは相当きついだろう。 「あー、杏子」 「何ッ!?」 「ちょっとどっかで休まねえ?」 「……休み……! たい……! のか……!?」 杏子の息はだんだん荒くなっている。 「……いや、俺じゃなくて…………あーん……まあいいや。どっかで休もう」 『杏子ちゃん、その方がいいよ』 「……わかった」 ともかく、彼らはお姫様抱っこをやめてアカルンで近くのゲームセンターまで瞬間移動した。 何故ゲームセンターだったのか──おそらく彼女が好きだったからではないかと思う。 △ 血祭ドウコクは、いままさにその名に相応しい血に濡れた体を起こしていた。それはいつものように敵の血ではなく、自らの血であったが。 「……畜生」 オーバーレイ・シュトロームで何メートル吹き飛ばされただろうか。 ドウコクは、あのままオーバーレイ・シュトロームによって目の前の瓦礫──その時はまだ壁だったはずの瓦礫──を突き破ると、更に次の建物の壁に叩きつけられた。そこに全身がめり込んで、しばらく動けなくなっていた。 全身に強い痛みが走っている。ぶつけられた背中も特に痛む。直撃を受けた表面中もまた痛んでいる。力もろくに入らない。 だが、ドウコクは立ち上がった。 「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 ドウコクの咆哮は、真後ろの建物にできた罅を巨大にしていく。 それはやがて、建物を支えきれないほどの罅ができると、その建物はドウコクの真後ろで、目の前の建物と同じく瓦礫に変わっていった。 これで風都タワーから三つ連続で瓦礫ができたわけだ。 この近辺は他にも、瓦礫と化した建物があった。 どうやら、戦いはドウコクがいま体験したものだけではなく、幾つもあったようである。 腹の底から怒りがわき上がる。あの娘に敗北するなど、あってはならないはずなのだ。 自分は外道衆の総大将であるというのに、何故あんな小娘にやられてしまうのか。 (……やっぱり、あれが無えと力が出ねえか……) どうも、小刀である降竜蓋世刀では、ドウコクは弱かった。 刃渡りの短さゆえ、ドウコクもあれを使って衝撃を起こすのは非常に難しく、また、敵との距離も詰めなければ戦えないのが少し問題であった。 昇竜抜山刀──それが、ドウコクが真に力を発揮するのに丁度良い刀なのだが、あれの持ち主はどこにいるのだろうか。 (先にそいつを探すか……? こんな場所で小さく暴れてても仕方がなさそうだ) ドウコクはもう一度、今度は冷静に思考を巡らせる。 怒りの咆哮を上げる時間は終わりだ。 残るシンケンジャーはシンケンゴールドのみ。これは放っておいても何とかなる。 あそこにいた数名分のデイパックは確認済だが、そこに昇竜抜山刀はなかった。 そうなると、街にいても仕方がないような気がしてくる。 (志葉屋敷……あそこに向かってみるか?) ドウコクの次の狙いは、マップの端にある志葉屋敷だった。 I-8エリアにいるドウコクからしてみれば途方もない距離であるが、まあ構う事はないだろうと思った。ドウコクはそう簡単には疲れない。 街にいる連中──特にあの銀色の戦士の相手をするには、今のままでは力不足な感じは否めない。 二の目になれば戦えるだろうが、二の目になるのも惜しいところである。 (……二の目? そういえば、アクマロは二の目にはならなかったのか?) よくよく考えれば、アクマロは死亡しているものの、二の目になったのだろうか。 外道衆には、二つの命がある。今のドウコクは一の目──つまり最初の命で生きており、等身大の戦いを繰り広げる。 だが、その命が尽きたとき、アヤカシとしてのもう一つの命である二の目が始まる。二の目が発動すれば、数十メートルの巨大な体となり、自由自在に暴れ回る事ができるのだ。 これだけ広い島なので、ドウコクが知らないどこかでアクマロが二の目となった可能性はある。しかし、それを倒せる相手が果たして存在するのだろうか? シンケンジャーが二の目を倒せるのは、シンケンオーを初めとする巨大戦用の装備があるからだ。しかし、ここにはそれらしきものはない。シンケンジャーも揃っていなければ、あの力は出せない筈だ。 アクマロは果たして、二の目になったのだろうか。 「……なるほど。ここで死んじまったら、二の目は無えって事か」 ドウコクは自分の首輪を弄んだ。 二の目になるのを封じているのは、この首輪だ。 おそらくだが、巨大化してしまえば、この首輪は耐えられなくなるのだろうとドウコクは考えた。 首輪の爆発は強力なものらしく、テッカマン、NEVER、砂漠の使徒など……おそらく外道衆と同じく戦闘に長けた者であっても死に至ると話していた。 死んで二の目になろうとした瞬間、首輪がはじけ飛べば、外道衆たりとも死んでしまうという事だろうか。 「まあいい……さっさとコレを外せる人間を捜せばいいわけだ……」 とりあえず、昇竜抜山刀を探すついでに、この首輪を解体できる人間を捜しておきたい。 そうすれば、ドウコクも本来の能力を発揮する事ができるし、禁止エリアや二の目の妨害などの様々な弊害から逃れる事もできる。 少なくとも、マイナスはないはずだ。 (ともかく、今は志葉屋敷とやらに向かうか) かつて、ドウコクが先代のシンケンジャーと戦ったあの屋敷だろうか。 ともかく、村エリアにはそれはそれで参加者が集まっていそうな予感もする。 昇竜抜山刀を誰かが持っているのなら、そいつをさっさと奪い、使いやすい刀を使った方が暴れるにも楽だ。 初心に帰り、暴れるより先に「暴れる準備をする」。 それが、今のドウコクの最優先事項だった。 【1日目 午後】 【I-8 市街地】 【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】 [状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、胴体に刺し傷 [装備]:降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー [道具]:姫矢の首輪、支給品一式、ランダム支給品0~1 [思考] 基本:その時の気分で皆殺し 0:志葉屋敷へと向かう 1:首輪を解除できる人間を捜す 2:昇竜抜山刀を持ってるヤツを見つけ出し、殺して取り返す 3:シンケンジャーを殺す 4:加頭を殺す 5:杏子や翔太郎なども後で殺す [備考] ※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。 △ 「……しっかし、便利だなぁ、コイツ」 カードゲームか何かの機体に備え付けられている椅子を勝手に幾つも並べて寝転がっている翔太郎は杏子から返された帽子の位置を直すと、杏子が持っているリンクルンとアカルンを手で弄んでいた。 アカルンはピックルンの一つで、瞬間移動に使えると杏子が教えていたのだ。 一キロ以上先には行けそうにないほか、参加者複数人での移動は、参加者の数だけ移動可能な距離が減少するものの、便利である事には違いない。連続使用も問題がないので、ゾーンメモリのような戦い方もできるはずだが、これはまた長距離での連続使用は難しそうだった。 「キィ?」 「うわっ! 喋った! なんだコレ……喋ったぞオイ! フィリップ!」 アカルンが喋った事に驚きながらも、テンションを上げすぎて胸を抑える。 やはり、胸骨が折れたのだろう。 『……もう今更、何が喋っても驚かないよ。何が喋ったんだかもよくわからないし……はぁ』 多少興味があったようだが、フィリップは見られなくて残念そうにため息をついていた。 無暗やたらと変身するのも問題なので、変身する気は起きなかったが。 「……」 一方、杏子は、いつもの如く、ダンスのように楽しめるリズムゲームをやりながら、ひとり物思いに更けていた。 エボルトラスターがその手にある。……これの使い方、あるいはあの巨人と一体化する事の重さもよくわかったが、やはり姫矢以外の人間にも会うべきなのだろうか。 特にそう……孤門一輝という男が、杏子はずっと気になっていた。 一応、広間にいた孤門という男の事は杏子も知っている。しかし、杏子の記憶の中で、孤門という男の顔はだんだんとはっきりしないものになってきた。 茶髪だったような気もするし、黒髪だったような気もする。ハンサムだったような気もするし、普通だった気もする。その辺を捜せばいそうな普通の人で、はっきり言えば、すれ違った人のように、彼の事は忘れかけていた。 まあ、警察署の方に向かえば会えるという事だが、生きているかが不安にもなってくる。 「どうした、アンコ」 ザルバが杏子の様子を気にかけて、話しかけてきた。 杏子は話しながらでも、画面に集中してゲームをする事が出来た。多少ミスが増えるが。 「この力の事だよ。……まあ、これの使い方はわかったし、何であたしに回ってきたのかもわかった。でも、この力は永遠にあたしの物なのかな?」 「……さあ、それは俺には少しわからないな」 「だから、孤門って奴を捜しに行きたいんだ。姫矢の兄ちゃんが、前に『不思議な力を授かったら孤門って奴に会いに行け』……って言ってたからさ!」 姫矢准が自分たちと離れる時、その名前を出したのをよく覚えている。 その男が協力してくれる……彼はそう言った。 おそらく、姫矢の知り合いだったのだろう。姫矢を支えてくれた仲間かもしれない。 とにかく、この光に詳しい人間がいるとしたら、その孤門一輝の他にいないだろう。 「……孤門一輝か。確かあの広間にいた、えーっと……あの青い服の」 「青い服? あ、そういえば青い服だったな!」 「へー、そんな奴がいたのか」 ザルバは広間での出来事など知らない。 「警察の特殊部隊みたいな恰好してたよな。もしかして、それで警察署にいるのか?」 「そんなに仕事熱心なわけ……」 と、言いかけてから、翔太郎は照井の事を思い出した。 あの男は流石に、警察署には立ち寄らない気がするが、警察という単語で思い出すのは彼だ。 それでまた、どうも嫌な気分になって、曖昧な言い方になってしまう。 「……まあいっか。警察署に向かえば、他の奴らとも合流できるだろ」 と、翔太郎が言った瞬間、ゲームが終わる。 スコアはまずまずといったところだろうか。いろいろと話しながらゲームをするのはやはり大変である。身体も動かしたので汗が出る。 ともあれ、これで翔太郎の心配をするにも問題がないというわけだ。 「身体は大丈夫なのか?」 「……ん。ああ、何とか……」 翔太郎は、腹筋を使って身体を折り曲げ身体を起こす。 ……と、同時に胸骨から激痛が走る。 「ぎゃあああああああああああああーー!!! ヘルプ! ヘルプ!!」 「……駄目じゃねえか」 「んな事言ったって、これたぶん骨折だぞ!! 骨折が放っといて治るわけねえだろ!!」 体中に痣ができた状態とはいえ、やはり胸が一か所だけ、ものすごく痛むらしい。やはり、そこだけ痣の紫色がやたらと濃かったので、怪しい。 殺し合いの場では、致命的な弱点が一つ出来てしまったといえるだろう。 骨折など、ただでさえ安静にする必要がある状態だ。しかし、翔太郎はそんな事は無視する。 「ここで立たなきゃ男が……俺のハードボイルドが廃る! 行け……左翔太郎!! 立て、立つんだ翔太郎……うおおおおおおりゃああああああああ!!!!!!」 ともかく、翔太郎は男の意地でゆっくりと起き上がり、半分涙目になりながら立ち上がる。 「……はぁ……はぁ……どうだ。立ち上がってやったぜ」 「いや、それは良いけど。歩けるのかよ」 「……はぁ……大丈夫……立ち上がれば歩けるはずだ」 翔太郎は、立ち上がって数歩歩いたが、どうやらちゃんと歩けるらしい。 足の方は、上半身に比べて痛みが少なく、辛うじて歩く時に足が痛むような事はない。 胸が痛むのは、身体を深く折り曲げたとき。胸部に刺激があった場合だろうか。 「スゲーだろ……どうだ……杏子……記念に……プリクラでも……撮るか……」 「……いいよ別に。何の記念だよ」 「そうだな……俺が、動けるなら、……プリクラとか……やってる場合じゃねえしな」 「……んじゃあ、とにかく、このまま二人で警察署まで向かうか」 二人の目的地はこのまま警察署だ。 そこに行けば、孤門に会えるかもしれないし、他の様々な仲間たちにも会える。 一つの目標地点としては間違ってない判断のはずだ。 「二人じゃねえ、三人だぞオイ、杏子」 と、翔太郎。 『……この場合、僕は含めなくていいんじゃないかな』 と、フィリップ。 「ちょっと待てよ。俺が入ってないぜ」 これがザルバ。 「キィ」 アカルン。ついでに、キルンも同じような事を言ったが、耳に入ってない。 「あー、人数の話はやめだ。ややこしすぎる。とにかく、全員で向かうぞ」 ウルトラマンの光もたぶん、人格を持ってるような気がする。 そうなると、本当に何人だかわからない。 杏子は混乱するので、人数を数えるのをやめて警察署に向かう事にした。 【1日目 午後】 【G-8 市街地(ゲームセンター)】 【左翔太郎@仮面ライダーW】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます)、上半身に無数の痣、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、ダブルドライバーを一応腰に巻いてます [装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW [道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ランダム支給品1~3(本人確認済み) 、 ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) [思考] 基本:殺し合いを止め、フィリップを救出する 0:警察署へと向かう。 1:風都タワーを破壊したテッカマンランスは許さねえ。 2:あの怪人(ガドル、ダグバ)は絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。 3:仲間を集める 4:出来るなら杏子を救いたい 5:泉京水は信頼できないが、みんなを守る為に戦うならば一緒に行動する。 [備考] ※参戦時期はTV本編終了後です。またフィリップの参戦時期もTV本編終了後です。 ※他世界の情報についてある程度知りました。 (何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます) ※魔法少女についての情報を知りました。 【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り [装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス [道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、魔導輪ザルバ@牙狼、 リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕+リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ランダム支給品0~1(せつな) [思考] 基本:姫矢の力を継ぎ、翔太郎とともに人の助けになる。 1:警察署に向かい孤門一輝という人物に会いに行く。またヴィヴィオや美希にフェイトやせつなの事を話す。 [備考] ※参戦時期は6話終了後です。 ※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。 ※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。 ※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。 ※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。 ※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。 ※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。 時系列順で読む Back 赤く熱い鼓動(中編)Next 終わらない戦い。その名は仮面舞踏会(マスカレード) 投下順で読む Back 赤く熱い鼓動(中編)Next Bad City 1 Shape of my Heart Back 赤く熱い鼓動(中編) 佐倉杏子 Next フィリップ少年の事件簿 謎の幽霊警察署殺人事件 Back 赤く熱い鼓動(中編) 左翔太郎 Next フィリップ少年の事件簿 謎の幽霊警察署殺人事件 Back 赤く熱い鼓動(中編) 血祭ドウコク Next 幾千光年孤独
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街角軍記 ◆gry038wOvE 「おい、杏子……その姿……」 左翔太郎──仮面ライダーダブルが驚くのも無理はなかった。 佐倉杏子が変身したその姿は、ウルトラマンネクサス──姫矢准が変身したものと同じだったのだ。 『どういうわけか、あの力は杏子ちゃんのもとに渡ったみたいだね……翔太郎の言葉を借りるなら、銀色の巨人かな?』 「にしても、いつの間に……」 『僕が思うに、彼女は放送より、もっと早い段階で姫矢准の死を知っていた。姫矢が死に際に託した……そういう事が可能な力なんじゃないかな……おそらくね』 「……本当か? おい、なんでそれを早く言わねえんだよ!」 しかし、ウルトラマンネクサスは背後から聞こえるダブルの声を無視して走り出した。 ネクサス──佐倉杏子は、この場の誰よりも早く、その拳を血祭ドウコクの身体に食い込ませる。ほんの一時間も会話を交わしていない男・姫矢准に感じた不思議な共感が、彼女の気持ちを膨らませたのである。 友情や愛情など、そうした感情を抱く暇もなく、しかし、もう少し猶予があれば信頼感は強まったかもしれない相手だった。それが姫矢だ。 その「かもしれない」という僅かな可能性でさえ、力に変えられるほど──杏子は姫矢に対して謎の共感を持っていた。 その男の命を奪ったのが、この禍々しき怪物である。 名前、外形、声色、表情──全てにおいて禍々しいこの怪物の、これまた不愉快な感触がネクサスの拳を通して杏子に伝る。 ──なんだろう、この感触は。 彼の身体は拳の外で微かに蠢いている。腹部が萎む。怪物は息をしている──すなわち、生命を維持する活動を怠らない『生物』なのだ。 ヒトではない。 しかし、魔女のような存在でもない。 杏子は槍を使って戦っていたので、これまではあまりこうした敵の感触を知る事がなかった。だが、初めて敵の生命を肌で感じた気がして、少しばかり気分が悪くなる。 それでも、ドウコクの身体が吹き飛ぶまで、奥へ奥へとねじりこませるように拳を押し込んでいくように、殴る。一瞬のうちに、どこまで拳で敵の身体を捻らせるかが勝負どころだ。 「デュア!」 ──そして、ウルトラマンの力を前に、ドウコクが飛ぶ。 拳から波のように伝わった振動が、ドウコクの腹部を同じ波長で震わせ、その波が肥大化し、そこから突き放されるようにドウコクの身体が後方へ飛ぶ。 ドウコクの足が何度か地面をかすり、小さな火を一瞬だけ起こした。そのまま足と地面との摩擦でドウコクはブレーキをかけた。 この僅かな隙を利用して、出遅れた数名が駆け出した。 「仕方ねえ……事情は後で聞かせてもらうぜ!」 ネクサスの後ろから、仮面ライダーダブルが、キュアサンシャインが、シンケンゴールドが、アインハルト・ストラトスが駆け出す。 「「はぁっ!!」」 「「やぁっ!!」」 ネクサスが中央からドウコクを攻撃したのに対し、ダブルとサンシャインはそれぞれ右と左から、シンケンゴールドとアインハルトもそれに続いて攻撃した。 攻撃した後は、駆けぬけるしかない。一塁を駆け抜けていくランナーに感覚は近いかもしれない。彼らは、駆けぬけた後に少し不格好な減速をしてブレーキをかけた。 胸部や腰部を狙い、重く鋭い一撃が入り込んでいく。 ドウコクは、その中に込められている力強さのようなものを悟った。彼らは、どうやら力を入れて攻撃しているらしいのだ。今の一撃には、本気でドウコクを消そうという本気が感じられた。 しかし、ドウコクにとっては大して強いと感じられるものではなかった。 (当人にとっては快心の一撃ってやつか? ……俺にとっては大したダメージでもねえってのによ) ある程度の本気は感じられたものの、ドウコクはその一撃を手放しで賞賛する事はなかった。 五人分の攻撃は、せいぜい最初の腹部への一撃が強烈に感じた程度で、他の攻撃に対する痛みというのはほとんど無かった。 ……見たところ、疲労状態の相手が多いのだ。 こうした攻撃も、重い身体に鞭を打って、限界に近い身体で行われている。ゆえに、その拳にも全身全霊の思いが込められる。しかし、弱い。 ドウコクにとっては、おそらく常時の彼らの攻撃も蚊に刺されたほどの痛みではないかもしれない。痛みと呼ぶのも憚られるほどの、些末な事象である。 内臓、外部、精神──せめてそのどこかにでも痛みを与えられれば立派なものだが、この場において褒められたのは、ウルトラマンネクサスのパンチだけである。 実際、内臓か皮膚かはわからないが、腹部の感覚に麻痺か痛みか、そんな感覚があるのがわかる。理屈抜きの強さだ。これに関しては、ドウコクに対して感じた一瞬の怒りと、この戦士そのものの強さが相乗している。 ……一方、両腕両足は健在だ。そこに繋がる胸や腰のあたりも至って健康。目の前の敵を殺せないとは思えない。 「うらぁっ!!」 降竜蓋世刀を構え、まずはシンケンゴールドの方へと歩み寄る。真っ先に目についたのはシンケンゴールドであり、因縁のシンケンジャーだったという理由で、ほとんど直感的にに彼を最初のターゲットとして決めた。 ウルトラマンネクサスを選ぶのも一つの手だったが、距離感覚的にはシンケンゴールドが近かった。 「え、わ……っ!」 シンケンゴールドの胸を、左から右へ真一文字に斬る。 その反動で回転したシンケンゴールドの背中を斬る。 今度は、シンケンゴールドの背中を蹴飛ばし、倒れた彼の腹に足を乗っけて、動きを封じ、刀を構えなおし、真上から垂直に降竜蓋世刀を……下ろす。 胸部に衝撃を受け、遂にシンケンゴールドのスーツは攻撃に耐えられなくなり、一瞬だけ白い光に包まれて、元の梅盛源太の姿が現れた。 いよいよまずい──そう直感したダブルが、真っ先にドウコクのもとへと駆けつけた。 生身のシンケンゴールドに向けて、もう一度その刀が振り下ろされる前に、ドウコクには一撃やらなければならない。 「フィリップ!」 ダブルの半身が叫ぶと、ダブルドライバーの右側のスロットから緑のメモリが外され、黄色いメモリが挿入される。 具体的な指示はなかったが、「翔太郎」の呼びかけの意味を、「フィリップ」は理解した。 ──Lunna── ──Lunna × Joker !!── ──ルナメモリである。 ルナメモリの力によって伸縮自在となった右腕は、真っ直ぐにドウコクの右手に向かって、伸びていく。 伸びていく……といっても、人間の腕の長さではない。 仮面ライダーダブルと血祭ドウコクとの間にあった距離──およそ七メートルほどの距離を、動かずしてゼロに変えるほどの長さで、ドウコクの右手を掴んでいたのである。 その姿は、まるで妖怪。────いや、外道衆の怪人の如き姿であった。 少なくとも、ドウコクと敵対してきたシンケンジャーには、こんな風にドウコクの腕を止めた者はいなかった。 ターゲットの変更だ。 ドウコクは、掴まれた右腕を振り払い、地面の源太を「歩くついでに」とばかりに蹴飛ばして、憮然とした態度でダブルの方へと歩いて行った。 「おい、こっちに来るぜ」 『近接戦……。なら、こっちの方が向いてるね』 ──Heat── ──Heat × Joker !!── ヒートジョーカーの姿となったダブルは、向かい来るドウコクに自ら向かっていき、「火」のパンチを叩き込んだ。ドウコクはその一撃を受ける瞬間だけ立ち止まった。 火は、ドウコクにとって忌々しい元素だった。 シンケンレッド──シンケンジャーで最も忌々しい相手の使うモヂカラが、「火」のモヂカラだった所為もあり、この一撃には嫌悪感が湧く。ドウコクの身にはダメージこそ無いものの、眉を潜ませるような素振りを見せていた。 「オラオラオラオラ!!」 連打。 「ウラウラウラウラ!!」 連打。 「アダダダダダダダ!!」 連打。 微動だにしないドウコクに向かって、ダブルは炎の一撃を浴びせ続ける。 「ハァッ!!」 トドメとばかりに、ダブルは一周回転した後でパンチを叩き込む。その姿は何かのパフォーマンスのようだった。翔太郎の性格が、一本調子な連打に飽きて少し興のあるラストをやってみせたいと思ったのだろう。 余裕の表れかもしれなかった。 ……が、 「効かねえな」 当然ドウコクに効いているはずもない。 封印の文字でさえまともに効かない身体となったドウコクである。 外道でありながら、その身には人の身体を取り込んでいる。 弱点の類もない。 ただ、あえて彼を倒す方法が在るとするなら、それは一つ。 力ずく──のみである。 「はぁーっ!!」 ドウコクの呟きを無視して、キュアサンシャインとアインハルト・ストラトスは両サイドからドウコクに向かって飛び上がった。 力ずく。 そのやり方に最も向くのは、彼女たち二人だろうか。 彼女たちの攻撃方法は、ダブルのような能力によるものではなく、文字通り力に尽きるものばかりだ。パンチとキックを繰り返し、ライダー以上に武器を使用しない。 拳拳拳の脚脚脚……と、言ってみれば格闘少女そのものであった。 元々、人間時でも格闘を好む二人なのだから、この時においても「力ずく」という答えはすぐに出ていた。 しかし、当然、並みの力では「力」と呼ぶべきにも非ず──キュアサンシャインとアインハルトの一撃がドウコクにたどり着こうとも、その結果は他の仲間と同じだった。 結局のところ──答えは単純。 誰がやっても同じなのである。 ここにいる誰がどんな力を使おうと──この状態では、ドウコクには効かない。ここまで多くの戦いを切り抜けてきた彼らに対し、ドウコクはあまりにも万全すぎた。 更に言えば、ドウコクは万全なメンバーたちが挑んだところで勝てる見込みは薄い……それほどの強敵であった。 ドウコクの言葉を借りるなら、「絶望」がこの状況である。 「効かねえ……てめえらは、俺に挑むには弱すぎる」 左にアインハルト、前に仮面ライダーダブル、右にキュアサンシャイン……と、綺麗に並んだ三人を、ドウコクは半円を描くように斬っていった。 斬るというほど惨たらしいものではないか。──降竜蓋世刀に弾かれるようにして、三人は後方へと飛んで行った。 「うわぁぁつ!!」 似たり寄ったりの叫び声とともに吹き飛ばされ、全員が地面に倒れこんだ。 アインハルトの変身がここで解ける────成人女性ほどの身長の美女だったはずのアインハルトは、人形のような美少女へと姿を戻す。……傷だらけの、と付け加えればもっとわかりやすく伝わるだろうか。 身体機能は限界だった。精神状態も決して良いとは言えない。 こうしたあらゆる限界によって、敗北が近づいていた。 今の段階ならまだ、梅盛源太やアインハルト・ストラトスといった生身の相手に対して、ドウコクは何の攻撃も仕掛けないが、ここで変身している戦士が戦う理由はいずれも、「その人たちがより長く生きられるための時間稼ぎ」と同義であった。 無論、彼らは勝とうとしている。勝たなくとも、全員で撤退するくらいは絶対にしなければならないと思っている。 ……しかし、客観的に見ても勝てる理屈が見当たらないのである。 「他愛もねえな……」 ドウコクがそこに倒れこんだ三人を見下ろしている。 それの姿を見て、ウルトラマンネクサスは跳ねた。 跳ねた体勢のまま、地面と並行に宙を走る。ネクサスは、腕を引いた体勢のまま、ほとんど宙に浮いたまま前へと進んでいる。 ウルトラマンの持つ飛行能力を使い、地面から数センチだけ身体を浮かせた状態で移動しているのである。 ドウコクとの距離が縮まると、ネクサスの右拳は前に突き出された。 「デュアァツ!!」 ドウコクは背中を打った鋭いパンチの存在に吃驚する。 かなりの熱のこもったパンチで、なかなかの不意打ちであった。 ドウコクの目の前にはダブルが倒れていたが、その真上を通り過ぎ、まるで宙に向かって吹き飛ぶように、ドウコクの身体は飛んでいた。 ──Trigger── ──Heat × Trigger !!── ダブルは決死の思いで、倒れた身体でメモリを入れ替える。 ヒートトリガーへとフォルムチェンジしたダブルは、空中のドウコクを狙い撃ちし、その身体を打ち落とした。 いや、打ち落としたというには、ドウコクの受け身は上手であった。 だいたい、ドウコクの力が弱まった気がしない。今ので果たして、本当にダメージを受けたのだろうか? ドウコクが着地しようというタイミングで、偶然その弾丸が当たったような形だ。 そう、ドウコクは何事もなかったかのように両足で着地し、剣を構えていた。 先ほどと違うのは、こちらを向いているという事だろうか。 「うらぁぁぁぁっ!!」 ドウコクは、そのまま真っ直ぐにネクサスのところへ駆け出す。 その刀の切っ先を身体の左側に構え、一瞬の躊躇いも──疲労さえ感じさせないまま、ドウコクはネクサスの左脇腹に斬りかかった。 火花が散り、ネクサスの身体が吹き飛ばされる。 ネクサスもまた、地面と激突した。 「今のお前らじゃ俺には勝てねえ……。わかったか? 絶望ってやつが」 そうドウコクが呟いた時、まるで雷のような光と轟音が鳴り、地響きに身体が揺れたような感じさえした。 地面に倒れこんでいる彼らには、ドウコクの姿がとてつもなく大きいものにも見える。 あるいは、ドウコクの堂々たる迫力が原因だろうか。 疲労による眩暈が起きているのだろうか。 彼らの目には、ドウコクの後ろで何かが崩落していくようなヴィジョンさえ浮かんだ────。 巨大なものが崩れ去っていくような……そんな不思議なヴィジョンが。 ────いや、待てよ、これは……。 「ふ、風都タワーがぁぁぁっ!?」 ダブルがそう叫ぶ。ドウコクの後ろに見える風都タワーが、地面へと落ちていくのだ。 この地鳴り、あるいは、このヴィジョン。全ては現実によるものだ。 ここから見える街エリアのシンボル的な建物である「風都タワー」。 それが、翔太郎たちの目の前で崩れていったのである……。 それはまるで、かつて仮面ライダーダブルと仮面ライダーエターナルがその場で戦った時の光景を、別の視点で見たような感覚だった。 それからしばらくして、崩れる風都タワーを背にしたドウコクも異変に気づくほどに巨大な音声が耳に入る事になる。 タワーを破壊したテッカマンランスという男による、崩落の呼び声であった。 △ キュアベリーは街にたどり着いた。 端的に言えば、それだけの事だが、再びここに返ってくるまでの道中はいろいろと大変だった事は言うに及ばない。 友人が死んだ。 敵に襲われた。 大変などという言い方さえ軽々しいほど、彼女の精神を強く傷つける出来事であった。 そして同時に、彼女はこの一瞬の中でも、自分が命を落としてしまうのではないかとヒヤヒヤしていた。 誰か……せめて、誰かがいればいい。 誰か。 せめて、目につくところに、敵でも味方でも、誰かがいれば蒼乃美希はそれだけで安心なのである。 首の爆弾が。 あるいは、耳に確かに聞こえる自分の鼓動が。 唾を飲み込むのに息を止めなければならぬほど強張った喉が。 寒くも無いのに勝手に冷え込み鳥肌を走らせる背筋が。 物を握れそうもないほど震える手が。 ──それらが命を奪う前に、せめて誰かに会いたい。 放送の内容をちゃんと聞いた誰かに会い、禁止エリアの場所を聞かなければならないのだ。 時間がない。 時計を見る時間さえ惜しいし、────時計を見るのが怖い。 街はむしろ、障害物だらけであった。 先ほどの草原などは、何もないので見渡しやすく、余計に誰もいないのが不安だった。 草原は、森は、あれほど広かっただろうか。 あれほど、誰かを探すのに不都合な場所だっただろうか。 本当に恐ろしい時に、それを分かり合える仲間がいない。 次々とこの殺し合いが進んでいるから、こうしている間にも人は死んでいるかもしれない。 自分が何かをする一瞬のうちに、誰かが死んでいて……自分が喜んでいる一瞬のうちに、誰かが悲しんでいるかもしれない。 自分がこうして、死の恐怖の中で周囲を必死に探している間にも、誰かは安心して寝ているのかもしれない。────そんな人が近くにいるとしても、美希にはそれが遠い何処かのような気がしてならなかった。 安心できる場所がこの島の中にあるとしても、彼女にはその場所がわからないのだ。 その場所を探している。せめて、この首輪が爆発するエリアではない何処かを。 禁止エリアがどこかわからない彼女にとっては、もはやどこも禁止エリアであるのと同じなのだ。 このバトルロワイアルが始まって以来、初めてとなるかもしれない徹底的な孤独と恐怖に、蒼乃美希は完全に打ちのめされていた。 「誰か! 誰かいませんか!?」 応答がない。 敵でもいい。不意打ちや奇襲に対する覚悟はある。 少なくとも、其処に誰かがいるという事は、おそらくその場所は禁止エリアではないと言う事なのだ。 それだけで美希は安心できる。 しかし、それなのに、こんな時に限って、敵さえ来ない。 どんな形であれ、応答があればいい。 応答。 誰かの姿。誰かの声。──何でもいい。とにかく、美希は誰かの存在を確認できる何かが欲しかった。 「誰か!! 誰か!!」 あまり無暗に大声を出しすぎると、声が枯れる可能性だってある。 それでも、あと少しの間に爆発が起きるかもしれないと思うと、声を張り上げずにはいられなかった。 「誰かぁ!!!!!!!」 その叫びの後、キュアベリーの耳に一人の男の放送が入る事になった。 △ ──一方、こちらはどういうわけか、あまりにも不格好な行進を始めていた。 「意外といけるじゃねえか」 アイリッシュ・ウィスキーの瓶を片手にしたドウコクの後ろを、杏子が、翔太郎が、源太が、いつきが、アインハルトが……至極不満そうに歩いている。 彼らの目には反逆心による闘志が燃え滾っている。変身を解いた状態の彼らが、いつドウコクの寝首をかこうかと策を頭で巡らせながらも、ほとんど付き従うようにその背中を追っている。 『どうやら、派手に暴れてる奴がいるらしいな』 『面白え。……そっちに行った方が楽しめるかもな』 『だが、てめえらも逃がしはしねえ。てめえらにも俺たちに着いてきてもらうぜ』 とまあ、アバウトにドウコクの台詞だけをまとめるとこんな感じで、結局戦闘による死者もなく話は進んだ。 変身は解除されたものの、変身アイテムや支給品の類は没収されていない。しかし、支給品はドウコクが念入りに調べ上げ、その結果、元々せつなの支給品だったこの酒だけが奪われた。 主に日本酒を飲んでいたドウコクが、初めてこんなものを飲んだわけだが、一応ドウコクの口にはある程度合ったようである。 ドウコクの気分は乗っていた。 酒が手に入った所為もある。しかし、実の所、それ以上に、自分がシンケンジャーの一人や、その仲間を付き従えている現状が面白かった。 敵を屈服させるのは殺す以上に愉快である。鼻を折るのが楽しいのだ。……それが小さくも実現している。 ドウコクが聞きたいのは人の慟哭、苦しみ、叫び、命乞い──とまあ、そんなものばかりだ。本来、殺す前の手順として、これが欲しいところであった。 だから、姫矢が命乞いをしなかったときなどは、ドウコクにとって何の面白みもなかったし、むしろ苛立たせていた。 それに引き替え、今の彼らは自らの疲弊状態をよく分析し、「他人」に近い隣の仲間を庇うために付き従っている。所詮は、偶然とおりすがった人間同士の寄せ集めだ。信頼感もないので、自分が死んだ結果として隣の人間が次に殺される……という心配でもしているのだろう。 ……何にせよ、どんな形であれ、命を惜しんでドウコクの要望を聞いてくれるのは心地がいい。 この殺し合いの中でも、街で崩壊が起こるのを聞いて駆けつけてみれば一歩遅かった……という前例があるが、それでもそれだけ活気のある者を切り裂きたいのも外道衆の総大将の常である。場合によれば、その者がドウコクが本来持っているはずの刀を持っている可能性だってあるはずだ。 そう、ドウコクが支給品をチェックしたのは、決して酒を探していたわけでも、彼らを警戒していたわけでもない。その刀を翔太郎たちが持っている可能性を考えて支給品を確認したのだ。 しかし、彼らの支給品にはそんなものはなく、代わりに酒があったのでそれを飲みながら歩いているという状態だ。姫矢に預けていた自分の支給品も一応は取り返し、 (テッカマンランス……!) 杏子は、放送で聞こえたテッカマンランスの事を知っていた。 テッカマンランス──それは、あの時……杏子と戦った奇怪な怪物だ。 ドウコクとはまた違い、変身を己の戦闘形態とする怪物だった。杏子やプリキュアたちのように、ほとんど素顔を晒すのではなく、どちらかといえばダブルやネクサスに近い素面を異形で隠した戦士であった。 せつなの命を奪った悪しき怪人であり、杏子にとっては、ドウコクと同じく仇の一人であった。姫矢を殺害したというドウコク、そして、せつなを殺したテッカマンランス……いずれも杏子にとっては忌むべき存在である。 どちらも捨てられない。 どちらも倒さなければならない。 その好機ともいえるのが、このドウコクの要求である。 テッカマンランスを倒しに行くからついて来い……という要望に沿えば、杏子はテッカマンランスとドウコクの二人を纏めて相手にすることができる。 (体力も……たぶん問題ない) 体力面でも、杏子はまだ複数人を相手にするのに問題が無い程度には健康体である。 ただ、それを差し引いても少しばかりテッカマンランスとドウコクの二人とまともに戦える状態とは言えない。 彼ら二人の実力はわかる。 だから、少しの恐怖はある。 だが、それでも……杏子は倒さなければならない。せつなや姫矢が死んだのに、このテッカマンランスとドウコクが生きていてはならないのだ。 (大丈夫だ、戦える……二人がくれた力もあるんだ) 杏子はリンクルンとエボルトラスターの二つのアイテムを授かっている。 辛うじてエボルトラスターの力は使えるが、アカルンの力が使えるか否かはまだわからない。 ──……どうしてそれを持ってるんだ? 杏子── 変身を解除してしばらくして、エボルトラスターを見た翔太郎が小声でそう訊いた。 しかし、杏子は答えなかった。 ……答えるべきだったか、答えないべきだったかはわからない。 それから、ドウコクがいる手前、あまりこちらで話し合う事ができる機会というのがなく、翔太郎が杏子にそれを訊くチャンスは巡ってきていない。 杏子は、少しだけ、それに対する罪悪感のようなものを感じていた。 「……少ねえ」 ドウコクの声が聞こえて、杏子はふと我に返る。 どうやら、ドウコクは瓶の中の酒の量に満足がいかないらしく、残り少ない酒をちびちび飲んでいる。 (酔っ払いそのものだな……) 杏子は眉間に皺を寄せながら、そう思った。 ドウコクが酒を飲んで多少上機嫌になっているのは、一目見てわかる事だ。 絶望と落胆の中で酒に逃げた杏子の父とはまた違う。酒を飲むのを本気で楽しみ、酒を一口飲むたびに下品になる。しかし、それでいて酒を飲むと暴力的になる。 まるで人間の酔っ払いのようだ。 酔っ払えば、判断力は鈍る。鈍れば判断能力を失い、隙ができるかもしれない。 ……まるでヤマタノオロチ退治だ。同じ化け物なので、感覚としては似ているかもしれない。 ただ、このアイリッシュ・ウィスキーという酒が少ししかないのが残念なところである。 「もっと酒をよこせ!!」 などとのたまうドウコク。その望みを叶えたいところだが、残念ながらそんなにたくさんは酒がない。 ……というよりか、ドウコクが真上を向いて舌に向けて垂らしたその一滴が、おそらく最後だ。 「おい……ええと、血祭ドウコクさんよ。酒はそれだけだ。さっき自分で出したんだからわかるだろ。……ったく……人間も怪物も……酔っ払いの性質の悪さは共通か」 杏子の指にはまったザルバが半ばあきれたように言った。 ドウコクはそのザルバがどこにいるのかわからなかったが、姫矢と見た指輪であるのを知って、だいたい杏子の手の辺りを見て答えた。 彼の言うとおり、実際酔っ払いより面倒なものはないだろう。源太のように酔っ払い慣れする職業ならともかく、女子中学生陣は酔っ払いを苦手とする事が多いはずだ。 「ああ……? これだけ店だらけならその辺から持ち出してくりゃあいいだろうが。てめえらも酒くらい飲むだろ」 一応、街の中にはコンビニやら酒屋やらはある。 だが、これまでそこにある酒の類には手をつけようとはしなかった。未成年ゆえの抵抗感もあるが、そもそも杏子はお菓子コーナーを優先するため、全然興味がないのだ。成人は二人の男性だけだろうか。 だいたい、この状況下で酒を飲む奴は少ないだろう。 酒に逃げる者もいるかもしれないが、それでもなるべくなら生きたいと願うのが人間だ。殺し合いの最中に酔っ払って判断能力を失うようなへまはしたくないだろう。場合によっては、「最後に酒を飲みたい」とか「どんな状況であれ知るか」とばかりに酒ばっかり飲む人間もいるかもしれないが……。 ドウコクのようなのは特殊で、大部分は酒を飲む余裕はない。 ……まあ、強いて言えば、映画のように傷口の消毒には使えるかもしれないという程度の認識である。 何にせよ、こういう状況になってみると、意外とコンビニにあるものが全て使えない品物に見えてくるのが恐ろしいところだ。頭の中で、何かとケチがつく。だから、中に入っても特に必需品になりそうなものを見つける事はできず、何もせず帰ってきてしまう。 「そうだ……おい、そこの緑のガキ」 「……え?」 「お前、どっかから酒を探して持って来い」 ドウコクが酒を持ってくるのに指名したのはアインハルトであった。 周囲を見渡すと、酒が手に入りそうな場所は無く、飲食関連の商店自体が少ない。何だかわからないビルや、せいぜいブティックなどがあるくらいだろう。 コンビニやら飲食店やら酒屋やら……というものがあった街並みは、とうの昔に見送ってしまった。 適当な使いっ走りを使って、酒を手に入れようとしたのだ。 「……私ですか? ……わかりました」 アインハルトは、何故自分にそれが任されたのかもわからないまま、頷く。 仲間を殺せ……とかそういう命令ならともかく、大きく抵抗のある命令ではなかった。 強いて言えば、状況がどうあれ窃盗に近い事と、未成年である自分が酒を持ってくるという事が若干グレーな気がするが、文句を言えばどうなるかわからない。 「酒が来るまで俺はここにいる。……だが」 と、ドウコクは少しそこで言葉を止めた。 そこから先にどんな言葉が来るのか、誰も期待はしなかった。ただ、嫌な事を言うのだろうとは思っていた。 「……長くここにいるつもりはねえ。一秒でも待ってやる寛容さも今の俺にはねえと思え。逃げてもいいが、三分経つごとにてめえの仲間を一人殺す。それまでに、何でもいいから酒を持って来い。いいな……?」 ドウコクは言う。 そう、ドウコクが他人を逃がすわけはない。 酒を買わせる使いっぱしりとして利用しながらも、ここに戻ってこないとか、仲間を引き連れてくるとか、そんな可能性を消し去ったのだ。 だいたい、三分という時間自体が結構な無茶でもある。 しかし、アインハルトは応じるしかなかった。必死でやれば、三分以内というのも可能かもしれない。おそらく口答えは許されないだろうし、全力全開を尽くせば辛うじて三分以内にはたどり着けそうだ。 アインハルトは、すぐに覇王形態へと変身し、痛む身体に鞭を打つように走り出した。 アインハルトが去っていくのを黙って見送った後、ドウコクはその場に座した。 彼は時計を見ていなかった。 「……おい。どうだ? 帰ってくると思うか?」 ドウコクは、座ってから他の連中に問うた。三分以内に帰ってくるか、ではなく……彼は彼女が帰ってくるかどうかを疑っていたのである。 ドウコクの耳には、風都タワー跡のあたりから聞こえる戦闘音が入っていた。 ……いや、人間である翔太郎たちにさえ、その音は聞こえている。かなり豪快に戦っているらしい。 先ほどから聞こえているのだから、アインハルトにも聞こえていただろう。 ほとんど激しい戦闘ができそうにない彼らがそこに向かうのは、はっきり言って命取りだ。ドウコクが翔太郎たちを連れて行こうとしている理由もだいたいわかる。 「てめえらを連れていくのは、てめえらが逃げないように……そして、盾として使えるかもしれねえからだ。わかってんだろ?」 そう、どちらにせよ、タワー跡に向かえば大方死の未来が決まっている。 向こうでの戦闘も、かなり高い確率で殺し合いに乗る者同士の戦闘ではないだろうか。 テッカマンランスなる人物が殺し合いに乗っているのは確実であり、その男は単独で風都タワーを吹き飛ばすほどの猛者だ。 そこに連れて行かれるという時点で、死刑囚が歩くのとほとんど同義に近い。 付き従って歩いているのは、そこにたどり着くまでに何らかの方法でドウコクのもとから撤退するやり方を閃きたいからである。 しかし、着々と風都タワー跡は近づいていた。 そして、その間にドウコクに隙ができる事はあっても、ドウコクの妙な余裕から近づけずにいた。 唯一、逃げる手段があるのはアインハルトである。 今、こうして酒を買いに行けと言われて駆り出されているアインハルトは、逃げる事も容易なはずなのだ。 「……あのガキも死にたくはねえはずだ。他人の命を犠牲にしてでも逃げるのがこの場では賢明……戻ってくる事はねえだろう」 シンケンジャーが殊勝な人間というだけで、大多数の人間は外道と人との狭間にあるような冷徹さを持っている。 十臓や太夫のような存在がその証明でもある。十臓などは、外道以上に外道らしいとまで評されたほどだ。 人は常に、誰かを殺し、誰かを裏切り、そのたびに自分の命だけは尊重する醜い生き物である。それはどれだけ時を重ねても同じ事のはずだ。諦め、跪き、命を乞い、必死で生きようとする姿こそが、ドウコクが見るべき人間の姿のはずである。 ……ならば、当然、アインハルトはここへは帰ってこない。 アインハルトを選んだのは、何よりも彼女が年齢的にも、比較的未発達な精神の持ち主であり、何よりこの面子の中では黄色い髪の子供──先ほどまでは少女? ん? 今の姿は少年? どっちだかはドウコクにもよくわからなかった──と並んで、帰ってくる見込みが薄そうな人間だからだ。 「……おいおい、まるでどっかで聞いたことのある話だな」 そんなドウコクに対し、翔太郎が帽子の位置を直しながら言った。 「あ?」 「そんな外見で、『走れメロス』ごっこか? 似合わないぜ」 そのドウコクのやり方が、『走れメロス』という小説のあらすじに似ているような気がして、翔太郎はそう言った。 ドウコクがやっている事は、王様。アインハルトがメロス。ここにいるほかの連中がメロスの親友のセリヌンティウス。そう見立てるとわかりやすい。 自分の命の危険を引き替えに、セリヌンティウスを助けるか。あるいは、自分は逃げてしまって、セリヌンティウスには死んでもらうか……その二択の中で走っているのだ。 「その走れナントカとかいうのは知らねえが……随分と気に入らねえ態度だな。上から見下ろされるっていうのが、こんなに不愉快な物だとは知らなかったぜ」 ドウコクは座し、翔太郎は立ってドウコクを見つめる。ドウコクは彼に目を合わせようとはしないが、彼の影が自分の身体にかかるのはわかった。 見下ろされる感覚がこんなにも不愉快だとは、ドウコクにはわからなかっただろう。 ドウコクは座ったまま、翔太郎の反対方向を見た。背を向けているとはいえ、神経を巡らせているドウコクの背中は襲える風格ではなかった。 「……もしそれが賭博なら、俺の勝ちだぜ、ドウコク」 次に口を開いたのは源太だった。 「……前に、俺の知り合いがとてつもなく強え敵と戦った時、あの娘は向かっていった。だから、アインハルトは逃げねえ奴なんだよ。俺はもう答えを知っちまってるんだ。あの娘にはたぶん、逃げるなんて選択肢は浮かんですらいない」 乱馬とダグバの戦いの時、アインハルトが乱馬との約束を破ってでもダグバのもとへ向かっていったのを、源太はよく覚えている。それを考えると、やはりアインハルトはこういう場では絶対に逃げない少女なのだと思う。 年の割に、いや、その年ゆえか──芯が強い……その一点に尽きる。 だから、時間制限以外は心配はなかった。 その三分という時間制限も、ドウコクがじきじきに敷いた割には、比較的寛容にみられる部分だろう。彼が試しているのは、「帰ってくるか、帰ってこないか」──その部分のみで、それ以外の部分はある程度のさじ加減で決まる。 きっと、十分ほど待ってこなければ、興味を失って先を行き、適当に店を襲って酒を手に入れるに違いない。 現に、もうすぐ三分という時間は経とうとしているのだ。 「わからねえな……なんでただの寄せ集めの分際で、ついさっき知り合ったような奴を信用できる? いつ殺されるかもわからねえこの状況で、そいつが裏切らねえと断言できるのか? バカそのものだなてめえらは」 ドウコクは、一滴も絞り出せないほど飲みつくした酒瓶を地面に叩きつけた。砕け散った酒瓶に、一瞬場の空気が凍る。 何かが逆鱗に触れただろうか。……まあ、逆鱗に触れるような事ばっかり言っていたのも事実だが。 それでも、これだけ急にこんな事をするのだから、流石に背筋も凍る。 「……まあいい。今はまだてめえらを殺す気はない。今必要なのは酒だ。イラつく時は、人の悲鳴を聞くか、酒を飲むかしかねえ……そして幸運にもてめえらは酒を持ってた。それだけの事だ」 「悲しい奴だな」 「……それが外道だ」 ドウコクが立ち上がると、彼の視線の先に一人の女性の影が映った。 そのシルエットは、変身したアインハルトのものである。長い髪を揺らしながら、胸に何本も酒瓶を抱えて、こちらへ走ってくる。 酒の種類はわからないらしく、瓶の大きさもまちまちだ。 「だいたい三分か。……確かに博打なら俺の負けだ。だが、いつかは誰かが裏切り、俺に『仲間の命はやるから自分の命を助けてくれ』と命乞いをする。所詮は寄せ集めだ」 「……仮に俺たちが寄せ集めだとしても、裏切る奴はいねえ。……簡単さ。いま仲間じゃないとしても、裏切らずに一緒に過ごせばすぐに仲間になる……そんな予感があるから、俺たちは助け合うんだ」 「そうだ、俺たちは全員、何かと戦ってきた変身ヒーローに変身ヒロインだからな。一緒に過ごした時間が短くても、勝手に伝わってくるものがあるんだ」 翔太郎と源太にはそんな確信があった。 仮面ライダーも、シンケンジャーも、プリキュアも、魔法少女も……あらゆる敵と戦う宿命の中で、自分なりのやり方で生き抜いてきた。 仲間がいる者もいれば、いない者もいる。 他人を犠牲にした者もいれば、他人が犠牲になる事だけは避け続けた者もいる。 しかし、ヒトでないモノ──ヒトに限りなく近いながら、ヒトではなく、別の物に変身してしまったモノとしての共感が根っこにあるのだ。 姫矢や霧彦のような者もまた、そうだったのかもしれない。 ゆえに、短い期間であれ、稀有な存在同士が巡り合うシチュエーションは、彼らに共感を与えていた。 「酒を飲み終わる頃には、向こうの戦いも終わっちまうか……?」 ……しかし、そのあたりの台詞はドウコクとしては、イラつくだけなので、翔太郎と源太のキザな台詞は無視していた。 会話として成立しておらず、ただ自分の意見を投げかける形になっているので、このままだと会話のドッジボールになる。 ドウコクは、敵にボールを投げた後、そのまま悠々とその場から撤退していたのである。 翔太郎と源太は、気恥ずかしさを感じながらドウコクを睨んだ。 △ 時を少し遡り、話はまた別の視点に入る。 つい数秒前まで立ち止まっていた少女──アインハルト・ストラトスは、立ち止まって目の前の少女──といっても、アインハルトより年上だが──に声をかけていた。 「────あの」 と、アインハルトが声をかけた瞬間、おそるべきスピードでその少女はアインハルトに抱き着いた。 一瞬、何が起こったのか理解できず、言葉を失ったが……どうやらアインハルトを殺しに来たわけではないらしい。 「良かった!! 人がいた!!」 ……その少女・キュアベリーが、かすれた声で、しかし嬉しそうに声をかける。 アインハルトはこの人を知っていたし、この人もアインハルトを知っていた。 蒼乃美希ことキュアベリーとは面識も恩もあったので、姿を見つけるなり、アインハルトは大きな声で彼女を呼んだが、その結果、この反応である。 想定外かつ、理解不能な反応で、アインハルトは硬直していたが、とりあえずキュアベリーの方の力が抜け、勝手にキュアベリーがその場にへたり込んだ。 時間がないのはわかっているが、唖然としたアインハルトは思わず彼女に訊く。 「……あの、美希さん、どうしたんですか?」 「話せば長くなるんだけど……」 「じゃあいいです! すみません! ちょっと急いでるんで!」 「あーっ!! 待って待って! 長くならないから!! 禁止エリア教えて!!」 とりあえず、美希は単刀直入に聞きたいことを聞いた。 これが唯一の生命線。 禁止エリアがわからない限り美希は死んでしまうリスクを持ったまま歩くことになる。 やっと、一人ここに人がいるのがわかってホッとしたのだ。しかも、幸いにも敵ではなかった。 一人が二人になっただけなのに、ものすごく安心した気持ちである。 ……むしろ、世界に一人取り残されたのではないかとさえ思っていたので、こうして人の温かみを感じる事が出来るのはうれしい。 当のアインハルトも先ほどの美希並みに焦っているのだが。 「……じゃあ私の支給品あげますから、ちょっとその中身を見てください」 「え? それいいの? あなたは……」 「私がここを出たら、なるべく私から離れて、私の後ろをついてきてください。禁止エリアは近いですが、私の後ろを追えば大丈夫です。出来れば、理由を話したいんですが、時間がないので」 と言うなり、アインハルトは目の前のコンビニに入って、籠を取ることもなく、一番奥の、酒が置いてある区画に直行した。 とりあえず、冷えているビールのようなものは冷蔵庫を開ける手間があるので、野ざらしな酒を適当に取っていく。それぞれそんなに本数もないので、手前にあるのを適当に取る。 その姿を見て、美希は唖然としている。 「ねえ、そのお酒……」 「ちょっと必要なんです。すみませんがどいてください」 「あ、ちょっと……」 アインハルトはベリーを押しのけて、自動ドアが開くのを待った。 そのまま破壊した方が少しは時間が稼げるかもしれない。その僅かな一瞬の間に、アインハルトは時計を見る。 出発時に見た時計の時間から、まだ一分しか経っていなかった。どうやら、思ったよりも距離は近かったらしい。 自動ドアが開き、アインハルトに続いてキュアベリーがそれをくぐる。 アインハルトは、すぐにそこで立ち止まり、キュアベリーの方に向きなおした。 「……まだ少し時間があります。簡単に説明しますから、私の言う事を訊いてください」 余裕があるぶん、アインハルトは先ほどに比べて落ち着いて、キュアベリーに話しかける事が出来た。 「まずは、先ほどの無礼をお許しください。しかし、……私と私の仲間たちは今、少し厄介な状況に巻き込まれてて……」 「一体どうしたの……? 乱馬さんは……それに、さっきの放送……テッカマンランスって……」 「すみませんが……その辺りの事情もまた後で説明します。今、私たちはある怪人の指揮下にあり……残念ながら現状で私たちの力が及ばず、その怪人の言うことを聞くしかない状況です」 「……本当に深刻な事情みたいね」 「ええ。ですから、美希さんはなるべく、その怪物に気づかれないように私たちの後をついてきてください」 「でも、放っておけるわけがないじゃない……」 「怪人が美希さんの存在に気づいていないのはチャンスです。ですから……」 それから少しだけ話して、アインハルトは走り出した。 △ 明堂院いつきは、佐倉杏子の姿に少しの違和感を感じていた。 いつきにとって、この中で一番親しいのはアインハルトで、他の人たちはほとんど初対面だったので(アインハルトともほとんど初対面だが)、仲間の状態を見るにはまだ観察眼が発達していなかったかもしれない。 しかし、それでも杏子という少女の異常はわかっていた。 ドウコクに対して、並々ならぬ不快感を持っている──気持ちはわからないでもないが、それは、翔太郎や源太、アインハルトやいつきの持っている不快感の比ではないだろう。 最も嫌いな教師の授業を聞いている不良生徒のようだ。 杏子の性格がよくわかる表情である。 また、それ以上に気になるのは、アインハルトの挙動である。先ほど、帰ってきてからアインハルトの姿は妙であった。 それ以前までのように、ドウコクに屈する罪悪感のようなものを消し去っている。 目つきが違う。 ドウコクの命令を忠実に聞く事への負い目みたいな、そんな自信のなさそうな表情が顔から消えていたのだ。 あの僅かな間に、何かあったのだろうか? 「ねえ、何かあったの……?」 いつきは小声でアインハルトに訊く。 身長差が多少あるため、少し不格好にはなったが、ドウコクは気づいていないらしい。 それならば……と、アインハルトの反応を待つ。 「……少し待ってください。詳しい事は後で言います」 「にゃー」 「……あ、かわいい。……じゃなくて、えっと……」 「ところで、いつきさん。以前使用した、ひまわり型のバリアのような魔法はまだ使えますか?」 「え? うーん……魔法とは違うけど、変身すれば使えるはず……」 「じゃあ、いざというときに、少し手助けをしてください」 と、それだけ言った時、ひそひそとした会話を中断させたのは、またしても先ほどと同じ場所から聞こえる音声であった。 『聞こえるかな……リントのみんな……僕の名前はダグバ────』 マイクを使ったような音声で、まるで不慣れな日本語を使うようにゆっくりとした穏やかな口調で、何者かの放送が聞こえ始めた。 しかし、拡声器を使って人を集めようとする人間がこうも多いと、やはり聴覚で何かを捉える事は相当大事なのだろうと思えてくる。 こういう目立つ行為をする人間がやたらと多いのは不思議だ。 「……ダグバ、だと……!?」 翔太郎が驚愕する。 そう、この声は明らかにテッカマンランスのそれではない。それだけは一瞬でわかった。 その後、どこで聞いた声だったかを思い出そうとした。その矢先に、彼が名乗った名前はダグバ──それで思い出した。 ン・ダグバ・ゼバ。 先ほどの激戦の相手だろうか。 その答えは、立ち止まってその声を聞いていくとすぐにわかった。 『────ここに来て、そのリントを倒したばかり……でもまだ殺してはいない……』 「……そのテッカマンランスとかいう奴は、やられたらしいな」 あれだけ威勢よく声をあげ、風都タワーを破壊したテッカマンランスという男に興味があったが、そのテッカマンランスを倒したダグバという者は、それ以上の力を持っているらしい。 そして、驚くべきはその所要時間。テッカマンランスの放送から、────十分足らずだ。 まさに弱肉強食というところか。風都タワーを破壊し、おそらく多くの命を奪ったであろうテッカマンランスは、こうも早く倒された。が、上には上がいるのがこの世の理。 ────杏子とせつなが協力しても勝てなかったテッカマンランスは、更に強力な存在によって、いともあっさり倒されたという事だ。 その強さの程は、おそらく杏子の想像の範疇を遥かに超える。あの時──杏子がウルトラマンとなる前にウルトラマンだった男・姫矢准が戦い、勝てなかった相手でもある。 放送は中途半端なところで途切れたが、向こうの実情がどうなっているのかは不明だ。テッカマンランスの反撃でも受けたのか、第三者による妨害か──とにかく。 「……ダグバ」 そこにいるほとんど人間は、その戦士の名前だけで震えるほど、その戦士の恐ろしさを知っていた。 アインハルトと源太と翔太郎は実際に戦ったが、圧倒的な戦闘力を前に何もできなかったし、直接的には交戦していないいつきでさえ、周囲からの伝承と反応だけでも充分にその恐怖が伝わってきた。 何せ、これだけの戦士すべてが微かにでも手の震えを起こすほどの相手である。 「ダグバってのは、余程強えらしいな」 ドウコクは、戦闘こそしていないものの、一応ダグバの姿を知ってはいた。 姫矢の戦闘を少しでも見ていたドウコクは、ダグバの姿は見ていた。その内容については詳しくは見ていなかったが……。 「……まあいい。どれだけ強えかは知らねえが、てめえらと一緒に纏めて叩き潰してやる」 ドウコクにとって、首輪を解除できない人間は邪魔だ。 ほとんどランダムに邪魔者を排除し、気の乗るままに他人を殺す。 暴れる時は傍若無人の限りを尽くし、休む時は謀反者を赦すほどの裁量を見せる。 こうして敵を束ね歩くのは、此処にいる者すべてに対する憤りを使えなさを嘆いたためであり、こうしてテッカマンランスとダグバの元に向かうのは、より多くの厄介者を纏めて消し去るためだ。──放っておくのも一向だが、面倒な相手が近くにいるなら、今のうちに消しておくのがいい。 あるいは、こうして向かった先に昇竜抜山刀の持ち主がいるかもしれない。あれを持っている参加者がいるなら、それを奪い返さなければならないのだ。 「……行くぞ」 ドウコクが歩き出す。 それに追従して、他の面子も歩き出す。 その顔の多くには不満げな顔が描かれているが、付き従うしかなかった。 何の不満もぶつける事ができないまま、彼らの耳に入る戦闘音は大きくなっていった。 雷鳴が鳴り、雲行きさえ怪しいその場所は、まさに地獄に近づいているイメージだった。 その光景は異様そのもの。 そこだけ天気が歪められているかのような──集中的な落雷の数である。 そして──── 「ボルテッカァァァァァ!!」 ────叫び声が木霊し、彼らの視界を強い煌めきが支配する。 閃光。 雷の一瞬の光などとは違い、前方を真っ白に染め上げ、ビルも地面も空も街も何もかもを一色に同化する巨大な光であった。 それがこれほど巨大に見えたということは、ほとんど真ん前まで来ていたという事である。 建物を幾つ挟めば風都タワーの跡地がある……というあたりだ。 あとは歩いて三分もかからないだろう。 「────覇王形態!!」 と、覇王形態に変身するアインハルト。彼女は、その閃光の中にありながら、的確にドウコクの位置を捉えていた。 戦闘にいたドウコクの姿を見間違うはずがない。 ドウコクの手にあった酒瓶が割れ、残っていた中身が割れる。 背後からの突然の攻撃に、ドウコクは流石に驚愕する。 別の戦闘に大きな動きがあった瞬間──その瞬間に、アインハルトは行動する事にしていたのだ。 タワーが崩壊する瞬間の光。 あれがおそらく、何らかの攻撃によるものであるというのはアインハルトも理解していた。ダグバとの戦闘時に、乱馬が同じような光を起こしたからである。 あのエネルギーに近いものが、おそらく戦闘時に出ていた。 そして、先ほどから、雷鳴が迸っており、近づけば目をくらませる程度の光が存在していた。……遠くであれ、目を一瞬くらませるほどの雷である。 それは目印にもなるし、当然、ドウコクはそれに向かって歩いていた。 ……その攻撃の強大さは視覚的にも充分にわかる。もっと近づけば、明確に戦闘に乱入する前に攻撃に巻き込まれるであろうというのも予測可能な範囲だ。おそらく遠距離攻撃。それも、広範囲にわたる攻撃が繰り広げられている。 おそらく、近づけば自分たちもとばっちりを食らう。────特に先頭を余裕しゃくしゃくと歩いているドウコクは。 この一瞬で怯んだドウコクを、アインハルトは狙おうとしていたのである。 しかし、もっと早く閃光による目くらましが起きた。 何にせよ、戦闘地点とは距離が離れた場所で謀反を起こした方がいいに決まっている。 「今です! みなさん、変身を……」 アインハルトは、仲間にそう促す。 「お、おう……」 予期せぬタイミングでの謀反に他の全員が驚くが、言われた通りに変身するしかない。 人間体の耐久性では、まずこのまま一撃でも浴びて生存する事は不可能だ。 「プリキュア・オープンマイハート!」 「一貫献上!」 「いくぞフィリップ……変身!」 ──Cyclone × Joker !!── キュアサンシャイン、シンケンゴールド、仮面ライダーダブル、そして掛け声こそ出さなかったが、ウルトラマンネクサスが一瞬で変身を完了する。 だが、ほとんど先ほどの閃光は消え、あまりにも見事にドウコクの怒りに振るう姿が見えた。 何の策があってこのタイミングで裏切るのかはわからなかったが、他の四人はそれに乗るしかない。フィリップなどは、ここまでの状況をほとんど知らないため、完全に疑問顔だ。 「……てめえら、ここに来てこの俺を裏切るとはな……!!」 アインハルトにとっては、一瞬でも隙ができて、そこを突いて変身することができれば充分であった。 ドウコクの反撃が来る。それは誰にでも容易に予想がつく未来である。 しかし、アインハルトはそれをある程度計算に入れていた。 真っ先に狙われるのは自分である。 「いつきさん、お願いします!!」 ドウコクが剣を振るった時、アインハルトはキュアサンシャインの後方へとバック宙して移動する。 ドウコクの剣と相対するのは、キュアサンシャイン……という形になった。 『じゃあ、いざというときに、少し手助けをしてください』 つまり、これの事だ。 キュアサンシャインも戦闘には慣れている。 前方から剣を振りかぶるドウコクに対し、キュアサンシャインはサンフラワー・イージスを展開して対応する。 ドウコクの身体が跳ね返された。 「────今です、美希さん!!」 「えっ!? ベリー!?」 その瞬間であった。 アインハルトしか知らない切り札が、キュアサンシャインとアインハルトの背後から猛スピードで走ってくる。 それはキュアベリーである。 ある程度の距離をキープしつつ、アインハルトたちを追っていたキュアベリーは、ここで出てくる事になったのだ。 キュアサンシャインは驚きながらも、サンフラワー・イージスを解除し、キュアベリーが飛び上がる道を作り上げた。 「なんだ、てめえは……!!」 イレギュラーな戦士の参戦に、ドウコクは驚愕する。 蒼の戦士が不意に現れ、それがドウコクのペースを乱す……というのは、本来なら将来的にドウコクを死へと導く戦法だった。 背後から現れたもう一人の戦士の存在を知らないドウコクは、身動きもとれないまま、その右腕にキュアベリーのキックを受ける。 彼女の蹴りを受け、ドウコクの右手から降竜蓋世刀が吹き飛んだ。彼の得意武器である剣が彼の手から放たれれば、ドウコクは丸腰同然である。 その様子を見るなり、キュアベリーはアインハルトたちのもとへと跳び跳ねながら優雅かつ華麗に戻る。近くにいたままでは危険なのは承知だ。 「……なんか知らねえが、とにかくチャンスができたみたいだぜ、フィリップ!」 『ああ!』 ──Heat× Trigger !!── ダブルは即座にヒートトリガーに変身し、火炎の弾丸で次々とドウコクを狙い撃つ。 そこで出来た隙をついて、ネクサスはエネルギーを溜めている。 ドウコクの背後には誰もおらず、遠慮なく遠距離技を放てる状況なのである。 ──Trigger Maximum Drive── 「「トリガーエクスプロージョン!」」 「花よ舞い踊れ! プリキュア・ゴールドフォルテバースト!」 「デュアアアアッ!!」 突然の出来事に対応しきれないドウコクに対し、ウルトラマン、仮面ライダー、プリキュアによる攻撃の雨が降り注いだ。 流石のドウコクも怯むほどに、その威力は強烈である。 本来、単体で受けても強大なパワーを持つはずの必殺技の数々が、同時にはなたれ、ドウコクを射止めているのだ。 「こいつはオマケだ!!」 ただでさえ一瞬でダメージを負い、意識が朦朧とし始めているドウコクのもとに、再び小さな閃光──。 シンケンゴールドが持っていたスタングレネードによる攻撃である。 ドウコクの視界は真っ白になり、攻撃は来るのかと身構えた。 しかし、ドウコクの視界が戻った頃には、既にそこには誰の姿もなかった。 最後の一撃も含め、彼らは逃走のための策を練っていたのである。 当然だ。このまま戦ったところで優勢にはならないし、仮にドウコクに勝ったとしてもすぐ近くに別のマーダーがいるという状況。 ドウコクをどこまで打倒しても、次にはダグバとテッカマンランスが待ち受けている。 そんな状況下で、まともに戦えるわけがない。撤退は良策に違いない。 「チッ……奴らの息の根を止めるのはお預けか……」 ドウコクは心に強い苛立ちを感じつつも、彼らが一応、自分の手から上手く逃れた事を少しは心の中で賞賛している。 ここでドウコクを倒すなどという愚かな戦法に走らない程度には、彼らも利口であるらしい。 「……まあいい。いくらでも相手はいる」 ドウコクは先ほど吹き飛ばされた降竜蓋世刀を拾い上げながら呟き、そしてそこにいる戦士に語りかけた。 「まずは……てめえだよな」 △ 「……はぁ……はぁ……何とか逃げられたみたいだな」 「ったく……こっちも焦ったぜ……策があるなら言えよ!」 「……言える状況がなかったので」 策というには少し成功率も低いが、それでも賭けられるのは僅かでも可能性がある道。 ドウコクが酒を飲んで酔っている事や、前方での戦闘がそれなりに大規模である事を考えると、アインハルトの中での成功率は70パーセント程度はあった。 何らかの隙ができる事は、ドウコクの調子が少し変わっている事からも読めたし、キュアベリーの登場を予期していない限りは充分に対応可能な戦法であった。 そんな事よりも問題となるのは、他の全員がどの程度アドリブに対応できるかという事。 長々と説明できる時間もなく、また悟られないようにしなければならない……という状況だったので、少し心配ではあった。しかし、アインハルトは彼らが戦闘においてプロである事に賭けたのであった。 集団戦では、このように一瞬でも隙をついて行動し、仲間の意図する方向に進めていくことが重要となる。 「……まあ、ひとまずは警察署に向かうか。てか、あんなところで油売ってねえで、さっさと警察署に行かなきゃならねえ……」 向こうでまた、危険人物の対処を行う必要があるのだ。 孤門やヴィヴィオなど、警察署に残っている人間との合流が先決である。 「ところで、アンコ。さっきから言ってるが、どうしてお前がその力を持ってるんだ?」 翔太郎が杏子に訊く。 「……」 「……」 「……」 「……」 「にゃー」 ……源太が、美希が、いつきが、アインハルトが、アスティオンが、きょろきょろと周囲を見回した。 美希はアンコというのが誰だかわからないので、特にきょろきょろと見回している。 が、翔太郎が誰に向けて話しかけているのかがわからなかった。 「……いねえじゃねえか!!」 『翔太郎……どうやら、杏子ちゃんはあの場に残ったみたいだね』 「あのバカ!!」 あの閃光の中、源太とアインハルトの誘導を頼りに同じ方向に逃げた面々だったが、全員いるかの把握はとれていなかった。 そう、佐倉杏子の場合──。 血祭ドウコクに対しての、そしてテッカマンランスに対しての恨みが強すぎた。 少し戦った程度ではない。この二人によって、この場で出会った仲間を殺されているのだ。 その結果、彼女は撤退をしないという選択肢を選んだのである。 「くそっ……」 『どうする? 翔太郎』 「あいつ一人で敵に敵うとは思えねえ……とにかく、あいつを手助けして連れ戻さなきゃな」 翔太郎とフィリップが言うが、一方で。 「……だが、一刻も早く警察署に向かわねえと」 と、源太も言う。 そちらも大事だ。全員で引き返すわけにはいかない。 「……わかった。先にみんなで警察署に向かえ。“俺達”が“二人”で引き返す」 翔太郎は腰に巻いたダブルドライバーの事を強調するように言った。 流石は二人で一人の仮面ライダーこと仮面ライダーダブルである。 事情を知らない美希がひどく混乱している。いつきも詳しくは知らないのだが、放送の段階からダブルドライバーに備わった特殊な妖精(?)みたいなものがフィリップなのだと認識していた。 「本当に一人……じゃなくって……二人で大丈夫なのか?」 「わざわざ危険な場所に何人も来る必要はねえ……それに」 「それに?」 「俺も丁度風都タワーをブッ壊した奴には腹が立ってるんだ。ついでにブチのめしてくる」 翔太郎もまた、ダグバやテッカマンに対する因縁の持ち主である。 テッカマンブレード──相羽タカヤとは一時期合流しており、テッカマンランスについても聞いている。 ダグバをはじめとするグロンギにも敵意があったし、杏子とも親しかった。何より翔太郎はそいつらが街を荒らしている事が許しがたかったのである。 「……ってわけだ、レディの護衛は任せたぜ、寿司職人」 翔太郎は、源太に対して気障にそう言うと、ジョーカーメモリを取り出した。 「いくぞフィリップ!」 『準備はいいよ、翔太郎』 ──Cyclone × Joker !!── 仮面ライダーダブルへと変身した翔太郎は、そのまま疾風の如き速さで来た道を戻っていった。 ともかく、これでこの場にいるのは源太、美希、いつき、アインハルトになったわけだが……。 「……えっと……美希さん。デイパックを」 アインハルトは、美希と一時的に交換していたデイパックを返す。それと同時に、美希はアインハルトに自分のデイパックを返した。 美希がアインハルトの地図を確認するため、ともかく一時的に二人はデイパックの交換を行っていたのだ。アインハルトが美希のデイパックを受け取ったのは、ドウコクに怪しまれないためというのが大きい。 美希はドウコクたちを追いながらデイパックを確認したため、禁止エリアに関しても把握しており、今は少し安堵している。 「……それで、一体どうなってるの? 乱馬さんたちは……? 警察署にいたんじゃないの……?」 美希が訊くと、アインハルトがその疑問に対して答え始めた。 乱馬の死に様やそこからのあかねの動向などを聞き、放送の内容を詳しく聞いた美希は、絶句する事になった。 【1日目/日中】 【G-8/市街地】 【梅盛源太@侍戦隊シンケンジャー】 [状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、後悔に勝る決意、丈瑠の死による悲しみと自問 [装備]:スシチェンジャー、寿司ディスク、サカナマル@侍戦隊シンケンジャー [道具]:支給品一式、スタングレネード×1@現実、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン 、 ショドウフォン@侍戦隊シンケンジャー、丈瑠のメモ [思考] 基本:殺し合いの打破 0:翔太郎や杏子が心配 1:警察署に向かう 2:あかねを元のあかねに戻したい。 3:警察署に戻る場合、また情報交換会議に参加する 4:より多くの人を守る 5:自分に首輪が解除できるのか…? 6:ダークプリキュア、エターナル、ダグバへの強い警戒 7:丈瑠との約束を果たすため、自分に出来ることは…? [備考] ※参戦時期は少なくとも十臓と出会う前です(客としても会ってない)。 【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:魔力消費(大)、ダメージ(大)、疲労(極大)、背中に怪我、極度のショック状態、激しい自責 [装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ、T2ヒートメモリ@仮面ライダーW [道具]:支給品一式(乱馬)、ランダム支給品0~2(乱馬0~2)、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ [思考] 基本:??????????? 1:警察署に向かいヴィヴィオと話をする。その後の事はヴィヴィオに委ねる。 2:乱馬の頼み(ヴィヴィオへの謝罪、あかねを止める)を果たす。 3:いつき達のような強さが欲しい [備考] ※スバルが何者かに操られている可能性に気づいています。 ※なのはとまどかの死を見たことで、精神が不安定となっています。 【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア!】 [状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、罪悪感と決意 [装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア! [道具]:支給品一式、ランダム支給品1、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、春眠香の説明書 [思考] 基本:殺し合いを止め、皆で助かる方法を探す 1:警察署に向かう 2:沖一也、アインハルトと共に行動して、今度こそみんなを守り抜く。 3:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。 4:仲間を捜す 5:ダークプリキュアを説得し、救ってあげたい [備考] ※参戦時期は砂漠の使徒との決戦終了後、エピローグ前。但しDX3の出来事は経験しています。 ※主催陣にブラックホールあるいはそれに匹敵・凌駕する存在がいると考えています。 ※OP会場でゆりの姿を確認しその様子から彼女が殺し合いに乗っている可能性に気付いています。 ※参加者の時間軸の差異に気付いています。 ※えりかの死地で何かを感じました。 ※丈瑠の手紙を見たことで、彼が殺し合いに乗っていた可能性が高いと考えています。 【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】 [状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り [装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア! [道具]:支給品一式、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、ランダム支給品1~2 [思考] 基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。 0:市街地あるいは警察署に戻り、放送の内容を誰かに聞く。 1:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。 2:プリキュアのみんな(特にラブが) やアインハルトが心配。 3:相羽タカヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。 [備考] ※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。 ※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。 ※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。 ※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。 △ 「……よう、存在を忘れてるかもしれないが、俺の名はザルバ。早速だがこのアンコとかいう姉ちゃんのせいで俺の命がヤバい。誰か助けてくれ」 と、ザルバが誰に向けてか言っている最中も、ドウコクの一振りは向かってきた。 ネクサスは、指にはまっているそのザルバという指輪を盾にして、ドウコクの攻撃を防ぐ。 ……ザルバは、それを察知して、ドウコクが振ってきた刃を歯で受け止めていた。 「ふぁふふぇーふぁふぇーふぁ(あぶねーじゃねえか)」 「デュアデャーデュア! デュア!(戦闘中にぶつぶつ喋ってんじゃねえ! 気が散る!)」 ネクサスは、そのままドウコクの腹部にパンチを見舞った。 ドウコクは剣ごと吹き飛び、ザルバは歯を元の状態に閉じる事に成功した。 「……ったく、なんでわざわざ残ったんだ? 一人じゃ勝てねえ相手なのはわかるだろ」 ザルバの問いかけを、ネクサスは無視した。 それに見合うだけの理由が、佐倉杏子にはあったのである。 少なくとも、せつなと姫矢が報われるには、確実に倒さなければならない相手たちが目の前にいるのだ。 逃げられない。 他の誰が逃げても、杏子だけは逃げるわけにはいかないのだ。 (こいつらは倒さなきゃならない……せめて、もっとデカいダメージを与えてやらねえと……) 撃退には至らずとも、せめて後に繋がるほどのダメージを与えたい。 それが贖罪に繋がるはずなのだ。 「わざわざ一人で残ってくれてるとは、勇気のある奴だな。命が惜しくねえのか?」 「デュア!」 「駄目だ、何を言ってるのか全然わからねえ」 何を言っているかは全然わからないが、ドウコクはとにかくそれを殺す事にした。 そこにいるのが意思ある人間である事だけはドウコクもよく知っている。 ドウコクに対する反抗心むき出しだった少女である。 「……オイ、ちょっと待てよ」 ……と、その時、ドウコクの足元に幾つもの弾丸が様々な方向から飛び交い、ドウコクがネクサスのもとに走っていくのを妨害した。 ネクサスが振り向くと、そこにはまた別の戦士がいた。 「一人じゃねえぜ、ここにあと、もう二人いる……」 左翔太郎とフィリップ──仮面ライダーダブルであった。 その姿はルナトリガーへと変わっており、それがネクサスの真後ろからドウコクの足元を撃つのを成功させていたのだ。 「……うん……? 俺は無視か?」 ザルバがぼそっと呟いた。 【1日目/日中】 【H-8/市街地】 【左翔太郎@仮面ライダーW】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、照井、霧彦の死に対する悲しみと怒り、仮面ライダーWに変身中 [装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW [道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ランダム支給品1~3(本人確認済み) 、 ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) [思考] 基本:殺し合いを止め、フィリップを救出する 0:杏子を助け、可能ならドウコクやテッカマンランス、ダグバを倒す。 1:風都タワーを破壊したテッカマンランスは許さねえ。 2:あの怪人(ガドル、ダグバ)は絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。 3:仲間を集める 4:出来るなら杏子を救いたい 5:泉京水は信頼できないが、みんなを守る為に戦うならば一緒に行動する。 [備考] ※参戦時期はTV本編終了後です。またフィリップの参戦時期もTV本編終了後です。 ※他世界の情報についてある程度知りました。 (何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます) ※魔法少女についての情報を知りました。 【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(小)、自分自身に対する強い疑問、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、ウルトラマンネクサスアンファンスに変身中 [装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス [道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、魔導輪ザルバ@牙狼、 リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕+リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ランダム支給品0~1(せつな) [思考] 基本:姫矢の力を継ぎ、人を守った後死ぬことで贖罪を果たす 。 0:ドウコク、及びテッカマンランスを倒す。 1:警察署に向かい孤門一輝という人物に会いに行く。またヴィヴィオや美希にフェイトやせつなの事を話す。 2:自分の感情と行動が理解できない。 3:翔太郎に対して……? 4:あたしは本当にやり直す事が出来るのか……? [備考] ※参戦時期は6話終了後です。 ※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。 ※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。 ※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。 ※彼女の行動はあくまで贖罪のためであり、自分の感情に気づいたわけではありません。 【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】 [状態]:ダメージ(中)、苛立ち、胴体に刺し傷 [装備]:降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー [道具]:姫矢の首輪、支給品一式、ランダム支給品0~1 [思考] 基本:その時の気分で皆殺し 0:目の前の2人を殺した後、テッカマンランスやダグバを倒す 1:首輪を解除できる人間やシンケンジャーを捜す 2:昇竜抜山刀を持ってるヤツを見つけ出し、殺して取り返す 3:シンケンジャーを殺す 4:加頭を殺す [備考] ※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。 ※アインハルトがその辺のコンビニから適当に持ってきた酒は全部キュアベリーが破壊しました。破片はH-8のどっかに落ちてます。 【支給品解説】 【アイリッシュ・ウィスキー@宇宙の騎士テッカマンブレード】 東せつなに支給。 バーナード軍曹が飲んでいた酒。配置されているコンビニ等にも置いてあるが、バーナード軍曹が飲んでいるのと同じ瓶と銘柄はこの会場ではオンリーワン。 時系列順で読む Back Uに一人だけの/COSMO BLAZERNext Lの雄叫び/逃避 投下順で読む Back AnotherNext A New Hero? Back You make me happy 蒼乃美希 Next Bad City 1 Shape of my Heart Back 御大将出陣 梅盛源太 Next Bad City 1 Shape of my Heart Back 御大将出陣 アインハルト・ストラトス Next Bad City 1 Shape of my Heart Back 御大将出陣 明堂院いつき Next Bad City 1 Shape of my Heart Back 御大将出陣 左翔太郎 Next 赤く熱い鼓動(前編) Back 御大将出陣 佐倉杏子 Next 赤く熱い鼓動(前編) Back 御大将出陣 血祭ドウコク Next 赤く熱い鼓動(前編)
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「何よ……これ……」 呆然と呟いたのはマミ。 触手を妖しくうねらせる怪物を前に、マミは立ち尽くしていた。 まさか魔女でもない怪物が存在して、しかも人間に化けているなんて誰が思うだろうか。 ――いいえ、こうなってしまった今だから言えるのかもしれないけど、予感はあった。 彼が暗闇から現れた瞬間、言い様のない悪寒を感じた。人間の靴音に銃を向けたのもその為。 よくよく注意すれば、気配といい目つきといい、ほとんど別人だと察知できたのに……! それなのに、見す見す思い過ごしで片付けてしまった。原因は今朝の一件にある。 自分に暴行を働こうとした彼に、マミは強い不快感と嫌悪感を抱いていた。 ――たとえ一分一秒でも傍にいたくなかったし、なるべくなら口も利きたくなかった。 そうやって関わりを避けたいと思うあまり、自ら発していた危険信号を、ただの悪感情と取り違えてしまった……! もっと早くに怪しいと思っていればこうはならなかった……今さら言い訳にしかならないけど。 マミは横目でほむらを見やる。表情は緊張で固まり、こめかみを汗が伝っているが、自分に比べれば遥かに落ち着き払っている。 ――それどころか、もし彼女の横槍が入らなければ、開けたここより狭く暗い通路を列になって進んでいた。しかも最後尾は彼。 主に悪い意味でだが彼は男性だ。何かあった時も二人よりはリスクも少ない。私から遠くにも置ける。 まさか、こんな時に妙な真似はすまい、と。 そうなれば、最初に犠牲になったのは彼の前にいた二人。私の判断ミスで彼女たちは確実に死んでいた……。 私のせいで―― 自責の念に駆られていた時間は長くなかった。すぐにマミはかぶりを振り、思考を切り替える。 今はそんなことを考えている場合ではないと。 気付くと、ほむらもマミを見ていた。 「反省なら後にしてちょうだい。やるの? やらないの? やるなら不本意だけど協力しましょう。そうでないなら早く逃げて」 マミの心中を見抜いたような口振り。 無遠慮な物言いにカチンと来ないこともなかったが、結果を見れば正しかったのは彼女なのだ。ここは従うほかない。 言動に相容れない点は幾つもあるが、二人を守ろうという思いは変わらないと思う。 多分、おそらく、思いたい。 ならば、取るべき道は一つ。 「くっ……やるわ! あなたたちは逃げなさい! 早く!」 まどかとさやかを下がらせ、銃を構える。 相手は得体の知れない怪物。信用できるかは不安でも、戦力は多いに越したことはない。 マミもまた、ホラーと戦う覚悟を決めた。 そして、まどかとさやか。ほとんど腰を抜かしていた二人は、マミの指示でやっと我に返ったらしい。 「は、はい!」 と、ぎこちなく答えて動き出した。 背後を気にしながらマミは、 「それで? 何か策はあるのかしら?」 「私が囮になる。あなたは攻撃に集中して」 問うと、すぐに答えは返ってきた。 マミの戦法としては、動き回るより止まった方が戦いやすい。特に最大火力の必殺技は移動しながらでは厳しい。 それ故に、ほむらの提案はありがたかった。 しかし、見たところ彼女の武器も銃。負担は彼女の方が大きいが、よほど自信があるのだろうか。 マミはチラリと背後を顧みる。二人はモタモタと逃げるのに手間取っている様子。 先の戦闘で床に亀裂が入っていたり瓦礫が散乱している。おまけに非常灯が何個か壊れているせいで、やたら暗い。 魔法少女の自分でも暗いのだから、彼女らは尚更だ。 射程から逃れるにはまだ掛かるだろう。時間を稼ぐ必要があった。 「わかったわ。それで行きましょう」 マミが頷くと、ほむらは答えずに駆け出した。答えの代りなのだろう、両手の銃を連射しながら突っ込んでいく。 マミはまず、ほむらの攻撃とホラーを観察する。でないと、的確な援護のしようがないからだ。 まず、ほむらが撃った銃弾のほとんどはホラーの胸部に命中したが、流石に正面は防御が固いのか、火花が幾つも散っている。 金属音からして、弾かれている可能性が高い。 それは、ほむらも見抜いている。狙いを手足にシフトさせつつ、側面に回り込む。 「そこ!」 攻撃のタイミングを窺っていたマミは、今がその時だと軽く手を振った。 床から――正確には、戦闘中にマミが床に開けた弾痕から生えたリボンがホラーの四肢を拘束する。 同時に、自身の周囲に召還したマスケット銃を取って引き金を引いた。 一発撃っては捨て、次を手に取り、代わる代わる射撃を繰り返す。 無数の銃声に紛れて響く、聞くに堪えない醜い悲鳴。 それでもなお手は止めず、容赦なく撃ち続ける。マミも、ほむらもだ。 銃声と金属音、そして肉を穿つ音と悲鳴の四重奏。混じり合う音は、否応にも精神を昂揚させる。 マミは確かな手応えを感じていた。 やれる。 倒せる。 この異形の怪物を。 動きを封じられ、黒い体液を撒き散らしながら仰け反っているホラーを見た瞬間、それは確信に変わった。 ほむらも射撃の手を止め、力なく棒立ちになった敵を見ている。 待っているのだ、怪物が崩れ落ちるのを。 為す術なく拘束され、呆気なく全身を蜂の巣にされた怪物を哀れに思わないでもなかったが、考えないことにした。 こんなものに同情したところで、何にもならない。正当防衛だと言い聞かせる。 だが、いつまで待ってもホラーが倒れることはなかった。いや、それどころか――。 マミとほむらは揃って目を見張る。 全身に開いた穴がズブズブ音を立てて塞がり始めた。 逆再生を見ているように、周囲の肉が寄り集まって傷口を埋めているのだ。 四肢を拘束していたリボンは、銃撃の嵐で破れる度に次のリボンが巻き付くようになっている。 むしろ何重にも巻かれ、強度は上がっているはずなのに。 それすらも、ホラーが身をよじるとヤスリのような凹凸の皮膚に引き裂かれた。 「まだ足りなかったのね……!」 マミは咄嗟に、再度ホラーを拘束しようと試みる。 手を振り、増えた床の穴から伸びる何条ものリボンが四肢をからめ取った。 まだだ、まだ足りない。今度は身をよじることも許さない。やり過ぎと思えるくらい、がんじがらめに縛った。 次々にリボンを増やした結果、今やリボンでホラーの身体が埋め尽くされ、見えなくなっている。 唯一、左腕の触手を除いて。 ほむらも両手の銃を上げて攻撃に加わろうとするが、 「手を出さないで!」 マミはそれを制した。 今、拘束が少しでも緩まるのは避けたかった。 これから繰り出す攻撃は外せない。大量の魔力を消費するそれは、拘束魔法とセットで使う、云わば必殺の一撃。 一挺のマスケット銃に魔力を注ぎ込む。オレンジの光が銃身を取り巻き、マミの背丈にも届く巨大な銃身が生まれた。 それだけでも十分な威力だが、マミはさらに魔力を集中させる。確実に葬り去る威力まで高めなければ。 巨大な銃身をオレンジの光が包み込み、銃身はもう一回り巨大化した。 マミの体躯を遥かに超えた銃身は最早、砲と呼ぶべきか。その巨大さ故に、台座で固定して安定を保っている。 「行くわよ――」 ほむらは黙って見守っていた。何かあれば、即座に動けるように。 その時、ホラーの動きに変化が起きた。と言っても、左手の触手が器用にうねり、全身をさっと撫でただけ。 ただ、それだけでホラーを拘束していたリボンはすべて切断され床に落ちた。 「駄目!!」 マミに向けて叫ぶほむら。巨大な銃身が陰になって、彼女からはホラーが見えていない。 ほむらの制止でマミも何が起きたかを理解するが、既に遅い。銃口には光が集まりチャージを始めている。 もう止まれる段階を過ぎていた。今、止めれば込めた魔力が無駄になる。 ――撃つしかない!! 幸い、ホラーは避ける素振りを見せない。一か八か、この一撃に賭ける。 ほむらもマミを助けるべく、ありったけの弾幕を張る。 マミの一撃が決まるまで、この場に押し止めなければ。 再度の銃撃、ホラーは声も上げなかった。どれだけ肉が抉られようと仰け反りもせず、視線はマミを捉えている。 その沈黙に、ほむらは不気味なものを感じずにはいられなかった。 砲身を形成してから一秒余り。ほむらとマミには永遠にも感じられる一秒だった。 砲口に光が集束し、 「ティロ・フィナーレ!!」 マミの掛け声に合わせて炸裂。溜め込んだ魔力をエネルギーに変換した光弾を解き放つ。 オレンジの光弾は砲口の大きさに見合った巨大なもの。当たれば、たとえ相手が誰だろうと無事では済むまい。 それほどマミは、この技に絶対の自信を抱いていた。 それと同時、ホラーも動きを見せた。 腰と両肩にある黒光りする突起。ハリネズミの棘を連想させる無数の刃がすべて光弾に切先を向け、一斉に射出された。 「――ッ!!」 ほむらの爪先から脳天まで震えが走る。 これは駄目だ。 これは絶対に危険だという直感。 撃ち出された刃は、さながらガトリング砲の如き連射速度でマミの切り札を迎撃する。 空中で光弾と刃がぶつかり合い、激しい爆発を起こした。 ほむらは身を伏せ、盾を前面に構える。耳と目を覆うことも叶わなかった。 闇をも焼き尽くすような炎。目も開けられない光と衝撃波で、攻防の行方は窺い知れない。己の身を守るだけで精一杯だった。 ただ、爆音に紛れて何かがヒュンと空気を切り裂いた。頭上を掠めた幾つものそれは、カカカカッと壁に突き刺さる。 おそらくは破片だろう。伏せていなければ、どうなっていたことか。想像してゾッとする。 側面ですらこれなのだ。正面に立つマミは全身を貫かれていても不思議はない。 マミは、ホラーどうなっただろう。未だ爆煙が立ち込め、なんとか視覚が正常に戻っても両者の姿は見えない。 ふと、立ち上がって壁を見る。突き刺さった破片の中には原形を留めている物もあった。 手に取って形を確かめ、ホラーの姿、攻撃を思い出す。 形は小振りだが、ひとつひとつが刃になっていることからも槍の穂に近い。長さはおよそ15cm以上はある。 穂先の反対側は窄まり、刃が付いておらず、柄に繋がるような形になっている。 なるほど、こちら側がホラーの体内に埋もれているのだろう。 こんな凶器を大量に、少なくとも100や200では利かない数、ホラーは身に纏っているのか。 方向を自由に変えられるなら、迎撃以外にも用途は広い。 ファランクス――。 二つの意味で単語が浮かんだ。もっとも、これはミサイルではなく砲撃だったが。 槍を並べた重歩兵の大軍が、犠牲を払いながらも果敢に砲台に挑み、遂には噛み砕く。 そんなイメージを抱かせる代物だった。 やがて煙が晴れると二人の姿が露わになる。 「……やったの?」 巨大な砲台こそ消えていたが、他は変わらず両者は向かい合って立っていた。 と、思ったのも一瞬。 マミの足が震え、膝から崩れ落ちた。 飛ばされた槍の穂がマミの左肩と右足の太股を貫いていたのだ。 当然、白いブラウスは赤く滲み、出血はブーツの中にまで伝い落ちている。 今も穂が突き刺さったままの傷口は見ていて痛々しい。 特に太股の出血は酷く、いかに魔法少女といえども治療しなければ危険だろう。 それなのにマミは両膝をつき、右手に持ったマスケットで辛うじて姿勢を支えながら荒い息を吐くばかりだった。 「嘘……」 愕然とするマミは力なく項垂れる。 ティロ・フィナーレが相殺された。 全力だった。 絶対の自信を持ち、ありったけの魔力を注いだ切り札だったのに。 今、マミの戦意は潰えかけていた。胸の闘志の炎は風前の灯火。傷の痛みより何より、目の前の怪物が理解できなかった。 これでホラーが無傷だったなら、妙な話だがまだ理解できたかもしれない。完全に相殺されたか、かわされただけだと納得もできた。 次は回避されないよう当てればいい。 なまじ手応えがあったからこそ、マミは困惑していた。 必殺のティロ・フィナーレを前に、ホラーも無傷とはいかなかった。それどころかダメージはホラーの方が大きい。 辛うじて逸らすのが精々だったのだろう。 光弾を相殺しきれず、普通なら――普通という言葉がそもそも彼らに通用するかはともかく――魔女であったとしても瀕死の重傷。 しかし、眼前の怪物はどうだ? 焼け爛れた右半身。右腕は吹き飛んで跡形もない。眼窩も抉られたのか、ギョロッとした右眼が半ば露出していた。 焦げた肉から立ち昇るのは、吐き気を催す異臭を放つ煙。 右半身の各所から黒い体液を噴き出しながらも――ホラーはなお悠然と立っていた。 結果だけ見れば痛み分け。いや、ティロ・フィナーレは完全ではないにしろ、十分な効果を発揮した。 だとしても、マミは膝を屈しホラーは立っている。この現場を見て、マミが優勢と判断する者はいないだろう。 そして最もマミの絶望を煽るのは、ホラーの負った深手が徐々にではあるが確実に再生を始めていることだった。 「化物……」 今さらわかりきった事実。 どうすればいい? どうすれば、この化物に勝てる? 知恵を振り絞って考える。 無理だ。 この傷で、魔力を大量に消費した状態で、どうやっても勝てる術が見つからない。 マミの心を支配する恐怖。一たび恐怖が顔を出せば、次に生まれるのは怯懦と相場が決まっている。 生き残る目があるとすれば手段は一つ。 逃げるしかない。 なりふり構わず、何もかもかなぐり捨てて。 自分以外のすべてを犠牲にしてでも、みっともなく尻尾を巻くしか。 まだ魔法少女はいる。消耗した自分がいても足手まといになるだけ。後輩二人も逃げ始めている、なんとかなるだろう。 自分への言い訳なら、幾らでも湧いて出た。 ホラーは動かない。嬲り殺しにでもするつもりか。 自然と膝が浮く。 腰が引け、足が逃げ出す為に後退りを始める。 太股に激痛が走るが、まるで気にならなかった。 マミが反転し、駆け出そうとした瞬間――。 「さやかちゃん! 大丈夫!? しっかりして! さやかちゃん!!」 耳に届いたのは悲痛な叫び。目に映ったのは力なき少女の涙。 床に倒れていたのは、まどかとさやか。 何故、彼女らがまだこんなところにいるのか。 考えるよりも先に、マミの足は意思に反して踏み止まっていた。 * ただでさえ、腰が抜けかけていたのに。 逃げようにも暗闇で足下も定かでなく、そこかしこに転がる瓦礫で足取りは覚束ない。 仕方なく、さやかとまどかは円形のフロアの外周に手をついて逃げるしかなかった。 今もマミとほむらとホラーの激しい戦闘は続いている。 反響して耳がおかしくなりそうな銃声と、それを上回る咆哮とも思える怪物の悲鳴。 聞こえる度に身体が竦んでしまう。特にまどかは顕著だった。 銃声が聞こえて数十秒、不意に周囲が明るくなった。 原因はマミだった。 凛々しい顔つきが、巨大な砲台の先から溢れる光に照らされていた。 光はさやかの元まで届き、ホラーの姿もぼんやり照らし出している。 さやかは恐ろしさと醜悪さに目を背け、まどかに視線を戻すと、彼女はマミに目を奪われていた。 逃げることも忘れて。 確かにマミは美しかった。それでいて、かっこよかった。 夢見がちなまどかが憧れるのも頷ける。 あの砲台はいわゆる必殺技というヤツなのだろう。 これで終わってくれるんだろうか。マミが終わらせてくれるんだろうか。 さやかはそんなことを思い、恐怖を堪えてホラーに目を移すと、 「駄目!!」 直後に転校生、暁美ほむらが叫んだ。 ホラーの両肩と腰から突き出す突起。すべてが一斉にマミの砲台に向いていた。 「ティロ・フィナーレ!!」 掛け声と共に撃たれる光の弾丸。同時に、ホラーの腰と両肩から何がが飛んだ。 何が飛んだのか、考える間もなく光が爆ぜる。 「きゃっ――」 「うぁっ――」 まどかの声なのか、自分の声なのかも判然としない。正しく声が出ていたのかさえも。 轟音と閃光と熱風で何もかも曖昧になった。 キーンと耳鳴りがして頭が痛い。眩しくて目も開けられない。 さやかにわかったのは、ホラーから撃ち出された何かが、マミの必殺技を迎撃したことだけ。 「まどか! 大丈夫!?」 返事はない。届いていないのか、たとえ返事があっても聞こえないだろう。 とにかく、すぐ側にいたのは確かなのだ。 触感しか頼れるものがなく、さやかは片耳だけ押さえて手探りでまどかを探す。 向きは変わっていなかったので、すぐに手は彼女を探り当てた。 制服の感触と、布越しの温もり。間違いない。 感じられる確かなものを離すまいと抱き締めようとした、その時だった。 ヒュンと耳元を掠める音。耳朶を実際に掠りでもしたのか、耳鳴りの最中でも感じられた。 何かが飛んできている。疑いはすぐに確信に変わった。 「痛っ!」 耳を押さえていた手に感じる痛み。 それが光弾と激突して砕けた刃の破片であると理解するより早く、怖気が駆け抜けた。 ここは危険だと、本能的に感知する。 「まどか伏せて!!」 言うが早いか、まどかを突き飛ばして、自分も上に覆い被さる。 直後、さやかのいた場所を飛散した無数の破片が通り過ぎた。 間一髪――とはいかなかったようで、さやかの左足のふくらはぎに破片が一つ突き刺さる。 かなり無理な体勢を取ったせいか、右足首が変な方向に曲がったのを自覚する。 挫いたかもしれない。 「さやかちゃん……?」 「まったく、鈍臭いんだから……」 不安そうに尋ねる親友に呆れ顔で、しかし明るく振舞って見せた。 彼女の性格はよく知っている。 内気で臆病。それでいて心優しくて友達想い。 人一倍、他人の痛みや苦しみ、悲しみに敏感で、誰かの為に涙を流せるタイプ。 知っているからこそ、この極限状況で不安にさせたくなかった。 「うん、ごめんね、さやかちゃん。それと、ありがと」 「いいって。それよりも早く逃げよ?」 「うん、そうだね……って」 そう言ってまどかは立ち上がろうとし、苦笑する。 「さやかちゃんが退いてくれないと私が起き上がれないよぉ」 「あ、うん……そうだった……」 さやかも苦笑いで返す。ただし、苦し紛れの引きつった笑いで。 まどかの顔の横に手をついて身を起こそうとし、 「っぐぅっっ――!」 突っ張れずに、彼女の上に崩れる。思ったより腕の傷が深かったようだ。 両足を支えようにも、まるで力が入らない。もう全身で痛くない場所などなかったが、 特に両足は今も疼くような激痛を訴えている。 「ごめん……ちょっと……無理、かも……」 笑顔を作ろうとしたが、今度は形にならなかった。 「さやかちゃん!」 只事ではないと察したまどかが、さやかの下から慌てて這い出る。 全身は熱いくらいなのに、どこか寒くもあるような変な感覚。 ひんやりしたタイルは心地よかったが、やはりまどかの上の方が柔らかくていい。 こんな状況で何を考えているのか。 内心で自嘲しつつ、さやかは火照った頬を冷たい床に当てたまま、動けなかった。 「さやかちゃん! 大丈夫!? しっかりして! さやかちゃん!!」 揺さ振られても答えられない。 ぼやけた視界で見たまどかは、目にいっぱいの涙を湛えていた。 ――ああ……やっぱり泣かせちゃったか……。 彼女の泣き顔を見ていると、やるせなさが胸に溢れてくる。 どうして泣かせてしまうんだろう。 自分には彼女を庇う程度しかできなくて、助けることも涙を止めることもできやしない。 無力な自分が無性に悔しかった。 「頑張って、さやかちゃん。今度は私が助けるから……!」 励ましながらまどかはさやかを背負おうとするが、立ち上がることもできずに潰れてしまう。 当然だ。彼女はさやかに比べ、小柄で力も弱い。脱力した身体を背負える訳がない。 だが彼女は諦めない。何度でも腕を肩に掛け、必死に背負おうとしている。 その横顔に胸が締め付けられた。 ――あたしは大丈夫。だから、まどかは先に逃げて。 そう言えたなら、どれだけかっこよかっただろう。 でも言えなかった。どれだけまどかを危険に晒していたとしても、側にいてほしい。 もし独りになってしまったら、きっと怖くて、心細くて、寂しくて。 ギリギリで保っている緊張の糸が切れて、子供みたいに泣き喚いてしまう。 なら、せめて今のあたしがまどかにしてあげられることは―― 「まどか、もういいよ」 「え?」 さやかは顔を真っ赤にして踏ん張っているまどかの腕をそっと解いた。 背中から降りて足を着くと、鈍い痛みで身体が強張る。立っているだけでも辛い。 でも、まどかに無理をさせる方が苦しかった。 自由になる右腕だけまどかの首に回して、 「っく……うん、これで大丈夫。さ、行こう」 そっと口の端を持ち上げた。 体重の半分をまどかに預けてもまだ足は痛んだが、今度は上手く笑えたと思う。 まどかも意図を理解したらしく、回された腕の上から、さやかの肩に手を掛けた。 「うん、急ごう」 生きる為に。 二人で元の世界に、光の当たる場所に戻る為に。 少女たちは歩き出した。 一歩一歩、踏み締めるように歩く。ゆっくりではあったが、確実に前に進んでいた。 二、三歩進んだあたりで、ジャリッと破片を踏む音と気配に振り向く。 まさか、あの怪物だろうか。マミの必殺技を受けて、生きているのなら――そういえば、マミはどうなったのだろう。 揃って戦々恐々としていると、 「あなたたち! 何してるの、早く逃げなさい!」 姿は見えなかったが、強い声は確かにマミのもの。無事だったのだ。 まどかは、ほっと安堵の息を吐きながら尋ねる。 「マミさん……無事だったんですか?」 「……ええ、大丈夫よ。全然平気。でも、まだ怪物は生きている。 さ、このまま真っ直ぐ行って。すぐ片付けて後を追うから」 「はい、ありがとうございます!」 マミは爆発に巻き込まれたかに見えたが、力強い声で導いてくれた。 良かった、本当に良かった。 不安が一つ解消され、まどかの顔から笑みと涙が一緒に零れる。 ――これなら大丈夫かもしれない。 マミさんとほむらちゃんが力を合わせて、あの怪物を倒してくれて、きっと家に帰れる。いつもの日常に帰れる。 あ、でもその前にさやかちゃんを病院に連れて行かなくちゃ。 明日になったら、マミさんとほむらちゃんにお礼を言って、それから、それから―― 自分で自分を鼓舞しながら、まどかは歩を進める。足取りは強く、さやかの重みも気にならなかった。 もちろん、隣のさやかを気遣うことも忘れない。 「さやかちゃん、もうちょっとだからね」 「うん、ありがと。って……ねぇ、まどか……」 顎をしゃくって前を示すさやか。従って目をやると、生き残っている非常灯の前に人影があった。 進むうち、徐々に明らかになる。長い黒髪と、白と薄紫の服。てっきりマミと一緒に戦っているものと思っていた少女。 「ほむらちゃん……?」 暁美ほむらが待っていた。 * 「ふぅ……行ったわね」 二人がゆっくり遠ざかっていくのを確認して、マミは息をついた。 痛覚を麻痺させることで、痛みはほぼ緩和できた。しかし傷口の、特に太股の出血は如何ともし難い。 当然だ、槍が刺さって穴が開いているのだから。 動脈を貫いている槍の穂を抜けば出血が酷くなるので、敢えてそのままにしてある。 なので、あまり激しい動きはできそうにない。拘束魔法を使えない相手には致命的と言えよう。大技も二度は通じない。 圧倒的に不利な状況。だというのに、マミは不思議と落ち着いている。 腹を括ってみれば意外と心穏やかだった。ただ諦めただけとも言えるが。 『君は逃げなくていいのかい?』 「キュゥべえ……もう大丈夫なの?」 足下に見慣れた小動物。 治療の途中から突発的な事態が続き、まどかたちに託す間もなく、物陰に隠していたのだ。 あれから気に掛ける余裕もなかったが、どうやら巻き込まれずに済んだらしい。 『うん、なんとかね。動けるようになったのはついさっきだけど』 「何にせよ、無事で良かったわ。あなたも早く逃げて」 動かないホラーと正対したマミは、ホラーから視線を外さずに答えた。 果たして動かないのか、動けないのか。再生の為に止まっているのだとすれば、待つのは不利になる。 逆に様子を窺っているのだとすれば、こちらから仕掛けるのは危険。 マミは二つの選択肢を天秤に掛け、キュゥべえとの、ひとときの会話を選んだ。 どうせ留まって戦うと決めた時点で、生き残れるとは思っていない。数秒の違いで覆せる戦力差とも。 足の傷も同じ。治療すれば攻撃に回す分の魔力が減る。 ならば後先など考えず、この身体が動く限り戦うのもいい。 そもそも何故こうなったのか、マミは胸中を振り返る。 ――倒れた二人を見た瞬間、勝手に逃げ足が止まった。 その時、私は本心を悟り、身を呈してホラーを食い止めようと決めた。 鹿目さんや美樹さんの為じゃない。あの子たちにそこまでの愛着はない。 キュゥべえの為。 もちろん、それもあるけど、最たる理由は意地。或いは妄執。いいえ、呪縛かしら……。 人を守る正義の魔法少女として戦う。 それだけが私のアイデンティティ。 たった一つ、世界と繋がっている証明。 他には何も残ってないと気づいてしまった。 けれど、ここで二人を見捨てて逃げれば否定したことになる。 そうなれば私は死んだも同然。 だから逃げられなかった。ここで死ぬとしても―― 『どうして死ぬとわかってて……僕には君が理解できないよ』 「そう……あなたにはわからないでしょうね」 結局、最後まで彼と真に心を通わせられた実感はない。 もっとも、こんな自身の恥部を理解してほしくもなかったし、理解できないのも当然。 高潔な自己犠牲とは程遠い。美談にもならない。これは歪み。 人を守ると言いながら、人を見ていない。大事なのは人ではなく役割なのだ。 魔女と戦う使命に疲れただの、本当は嫌だなどと苦悩していても、執着せずにいられない愚かな自分を知った。 これを歪みと言わずして何と言おう。 『まどかとさやかを説得して、魔法少女になってもらおう。君を助ける為なら契約してくれるかもしれない』 本当にそれだけ? あなたが契約したいだけではないの? 問い正したくなったが、止めておく。 彼とは友達でいたかった。道化でもいい。自分だけでも友達だと信じて別れたかったから。 「無理よ。出会って間もない人間を助ける為に命を懸けられる人間なんていないわ。 それにアレ相手じゃ多分、無駄になるだけ。逃げられる間は逃がしてあげて。 いざとなれば契約せざるを得ないんだもの」 戦って初めてわかる。あの怪物、強さだけなら、これまで戦った魔女でいえば中の上程度。 だが、あれは魔女とも魔法少女とも異なる理で動いている気がしてならない。 故に、あれを倒せるとすれば、同じ理の内にある者だけだろう。 「でも、それじゃ君が死ぬことになるよ。それに、まどかなら、きっと――』 「もういいの。あなたも行って。色々あったけど、あなたに会えて良かった。ありがとう……さようなら」 キュゥべえの言葉を途中で遮り、マミは一方的に別れを告げた。 あれこれ考え出して、迷いが生まれるのが怖かった。 ちっぽけなプライドと与えられた役割だけを後生大事に守って死んでいく。それでいい。 キュゥべえは説得を諦めたのか首を横に振り、 「そうか……わかったよ。さよなら、マミ」 別れを告げると走り去った。途中、一度だけマミを振り向いて。 すぐに闇に掻き消えた白い身体を見送りながら、マミは寂しく微笑んだ。 ――思えば、私の戦いはキュゥべえに捧げる恩返しであり、支払うべき対価だった。 でも、それも今日で終わり。 私は最後の最後まで、あなたのくれた使命を全うするから―― キュゥべえが去ると、ついにホラーが動き出した。 マミは周囲にマスケット銃を召喚。一挺を手に取り、クルリと一回転させて言い放つ。 「さぁ来なさい、化物。相手になってあげるわ……!」 肩と足を貫かれ、血塗れの衣装でありながらも、彼女は堂々と気高く在った。 その胸に悲壮な決意を抱いて。 * ほむらは握り締めた拳を震わせた。 満身創痍のマミを見たほむらに、最初に沸き起こった感情。 それは怒りだった。 決着を急いだマミへの。何よりも無暗にホラーを挑発し、マミを止められなかった自分への。 「だから駄目だと言ったのに……!」 回避と防御に専念していれば、防げない攻撃ではなかった。 引きつけつつ、深く切り込まずに時間を稼ぐだけでよかった。 待っていれば、必ず彼が来るはずだったのに。必ず、助けに来てくれるはずで――。 「でも、来ないじゃない……」 ぽつりと呟く。 ほむらの憤りの、もう一つの理由。 いつまで待っても現れない鋼牙への苛立ち。 信じる気持ちが揺らいでいた。 あと何分何秒待てばいいのだろう。 もう一分一秒だって待てないくらい限界なのに。 鋼牙は当てにせず、自力で対処すべきだろうか。 そう考える頃にはもう、取れる手段はないに等しかった。 いつの間にか鋼牙に頼ることばかり考えて、他の対策を講じもしなかった。 握り締めた拳を開き、額に手の平を勢いよく打ちつける。 激しい自己嫌悪。 こんなにも自分を憎んだのは、魔法少女になったあの日以来。 ――私のミスだ。そのせいで、何もかも手遅れになってしまった。 私はこんなふうに他人に依存する人間だったろうか。 私は、いつからこんなに愚鈍で他力本願になったの? まるで昔の私のよう。あの時からまったく変わってないじゃない……! 巴マミは正しかった。結果はどうあれ自分だけを信じて、敵を倒す為に戦っていた。 間違っていたのは私。あんな男、最初から信用するべきじゃなかった! 今日出会ったばかりの人間に勝手に期待して、勝手に失望して……馬鹿みたい―― 額に手を当てて数秒、ほむらは首を振った。 反省も後悔も後だ。ついさっき、マミにそう言ったばかりではないか。 今からでもできることがある、まだ一つだけ残っている。 目的を思い出せ。何故、自分がここにいるのかを。 ホラーに勝てなくとも、優先順位の一番大事なものだけを守れればそれでいい。 あの日、決めたのだ。 もう誰にも頼らないと。 たった一つの大切なものを――鹿目まどかを守る。 他のすべてと引き換えにしてでも。 改めて心に誓うと、ほむらはまどかの前に立った。 * 「あ、ほむらちゃん……どうしたの? マミさんは……」 何故か待っていた少女に戸惑いながらも、まどかは彼女の名を呼んだ。 ほむらは答えず、まどかとさやかに近付くと、 「まどか、手を貸して」 簡潔な一言と共に手を差し延べた。静かなのに語気ははっきりと、有無を言わさぬ雰囲気がある。 「え? あ、うん。代わってくれるの? でも私はまだ大丈夫だから、ほむらちゃんはそっち側を――」 まどかはさやかに肩を貸す役を交代すると解釈し、もう一方の腕を差す。 しかし、ほむらはそれを無視。黙ってまどかの首に回されたさやかの腕を外すと、まどかを押し退けた。 「……え?」 「ほむらちゃん……?」 困惑の声を上げるさやかだったが、抵抗もできず為すがままになっている。 まどかもまた、真意が理解できず混乱するしかない。 ほむらは掴んだ腕を首に回すことなく、暫しの沈黙の後、手を放した。 突然支えを失ったさやかはバランスを崩す。 まどかは助けようとしたが、ほむらに手を捕まえられた。 さやかは両足に掛かった負担で立っていられず尻餅をつく。 「痛っ!」 「ほむらちゃん、何するの!?」 まどかの抗議に耳を貸さず、ほむらはさやかを見下ろした。 その眼差しは、いつもの如く細波一つ立っていない。 違うのは、何かを堪えているような微細な手の震え。 「許してとは言わないわ…………ごめんなさい」 押し殺した声で言うなり、ほむらはまどかの手を引いて走り出す。 同時に左腕の盾に触れ、中心の砂時計を傾けると、ほむらの魔法が発動する。 魔法の正体は時間操作。 今、ほむらと手を繋いでいるまどか以外の時間は停止している。 もっとも、まどかは知る由もなく、ただ転ばないよう足を動かすので精一杯だった。 立ち止まろうとしても、細腕に似合わぬ強い力で引きずられてしまう。 「待って、ほむらちゃん! どうしてさやかちゃんを置いていくの!?」 歩くのも困難な怪我人を、こんな場所に置き去りにすることが何を意味するか。 わからないはずがない。 だが、ほむらは答えなかった。 「駄目だよ……こんなの酷いよ! 止まって! 止まってよ!!」 こうしている間も、どんどん距離は開いているのに。 ほむらは前方を見据え、まどかを見ようともしない。 唇をきつく噛み締め、ひたすら強引にまどかを連れて走る。 「お願い! マミさん……誰か、誰でもいいから――さやかちゃんを助けてぇぇぇぇぇ!!」 まどかは力の限り叫んだが、静止した時の中で、その声がほむら以外に届くことはない。 せめてもの祈りを込めた叫びは、空しく闇に吸い込まれていった。 * さやかが我に返った時、既にまどかとほむらの姿はなかった。 何が起こったのだろう。ゆっくりと記憶を辿る。 確かほむらに組んだ肩を解かれ、バランスを崩して転んだ。そして、ほむらはまどかと手を繋いで――。 「まさか……」 さやかは両手で身体を掻き抱く。 背筋が凍った。寒くもないのに震えが止まらない。 ――あり得ない。そんなこと、ある訳ない。でも、それならどうして……まどかはここにいないの? 必死に言い聞かせても疑念が拭い切れない。 意識が途切れたのは一瞬。と言っても、まどかの姿を探すまでに数秒のラグはあったかもしれない。 こっそり遠ざかる時間は十分にあった。 非常灯があっても視界が利くのは数メートル。 近くではマミがホラーと戦っていて、銃声がひっきりなしに聞こえてくる。 視界から消えれば、多少の足音はわからない。 すべての状況証拠が、ある一つの事実を示している。唯一、理由だけを除いて。 それでも、どうしても信じられなかったし、信じたくなかった。 ――まどかが……あたしを見捨てて逃げるなんて。 さやかは首を振って馬鹿げた想像を振り払おうとする。 けれども恐怖は正常な判断力を奪い、侵食する暗闇は振り払った疑念ごとさやかを押し潰す。 強引に連れ去られたのだとしたら、どうして悲鳴の一つも聞こえないのか。 ほむらがそんなことをする理由も思いつかない。 やはり、二人して足手纏いを捨てて逃げたのでは――。 もしそうだとしても、誰にも責められない。頭ではわかっているのに。 「どうして……こんなの嘘だよね?」 涙が溢れて止まらない。 呪文のように呟く「嘘だ」は、次第に嗚咽に変わる。 「行かないで……あたしを独りにしないでよ……まどかぁ……!!」 二人だから辛うじて保てていた緊張の糸が、ついに切れてしまった。 悲痛な叫びに応える者はいない。 残ったのは暗闇だけ。 聞こえるのは銃声だけ。 さやかは、か細い明りに縋るように壁にもたれ、膝を抱える。 もう何も見えない。 もうどこへも行けない。 顔を伏せ、すべてを拒絶すると、後はもう泣きじゃくるだけだった。 一人は使命に殉じ、一人は救いを待たず自らの力で足掻き、一人は絶望に暮れ、一人は救いを求めた。 いずれにせよ、その先に希望など待っていないことは誰もが予感している。 そして、希望の名を持つ騎士はまだ、現れない。 BACK 牙狼―GARO―魔法少女篇 7 Next 牙狼―GARO―魔法少女篇 9 目次に戻る
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登録日:2021/04/01 (木) 00 01 36 更新日:2024/03/18 Mon 18 40 20NEW! 所要時間:約9分で読めます ▽タグ一覧 テレビ番組 ファントム 見えざる妨害者 フジテレビ 三木康一郎 該当日に建てられた項目 『ファントム 見えざる妨害者』はフジテレビで2005年4月6日に放送された番組である。 企画・演出には番組以前に「クイズ」と「人狼ゲーム」をミックスした「クイズ!スパイ2/7」や映画「弱虫ペダル」を手掛けた三木康一郎氏が務めている。 三木氏の代表作として「トリハダ」「ホラー アクシデンタル」といったオムニバスホラーシリーズがある。トリハダシリーズでは「幽霊」「呪い」「超常現象」といった科学では説明できない事象の怖さではなく、「嫉妬」「執着」「狂気」といった人間が持つ怖さをテーマにした作品となっている。 この番組はそんな三木が手掛けた「実験」でもある。 オープニング 2005年4月1日。芝公園スタジオに何も知られずに集められた7人の芸能人は楽屋でアイマスクを付けるよう指示され、そのままスタジオに連れていかれる。 ウエンツ「南米とか行きませんよ?」 スタジオにいたのはおぎやはぎ(小木博明・矢作兼)、光浦靖子、ふかわりょう、ウエンツ瑛士、森下千里、和希沙也の7人。 中には「カメラに向かって行うべし」と書かれた定点カメラ、それぞれの名前が書かれた人形とハンマー、そしてテープレコーダーとカセットテープ。 テープレコーダーを再生するとルールが流れる。 1.提示されるミッションを3つクリアできれば豪華賞品がもらえる。 2.1回のミッションを失敗するたびに誰か1人が強制的に排除される。 3.この7人の中にミッションを妨害する人物「ファントム」が存在する。誰かはもちろん、何人いるかも教えられない。 4.もし途中でファントムが誰か分かったらその人の人形を破壊することでいつでも排除することができる。 つまり、ゲームに勝利するためには「ミッションを妨害するファントムが誰なのか?」、そして「犠牲者を多く出す前に早く排除できるか?」が必要となる。 その内容にビビる7人。しかし、この中に全てを知りながら演技している人がいる…? メンバーとファントムによる「見えない戦い」が始まる… MISSION 1 「ストップウォッチ」 1人ずつ文字盤を見ずにストップウォッチの時間を止め、全員が5秒台で止められればクリア。1人でも失敗するとやり直し。3回失敗で1人が強制排除。 とりあえず1回やってみることに。 1人目のウエンツは5.59秒でクリア、が、2人目のふかわは4.8秒で失敗。その瞬間に全員に疑われだすふかわ。が、流石に「今潰すのは早い」、森下も「あまり責めちゃうと潰れちゃう」とフォローする。 2回目は光浦が5.36秒、矢作が5.93秒と続けるも、和希は4.91秒で失敗。 光浦「悪魔はねぇ、一番美しい姿をしてるんだよね。」 ラストチャレンジの前にファントムを消すことも考えられるが、「ふかわがファントムならば誰かフォローする人間がいるはず(単独ではなさそう)」という事でここでは特定できず7人でラストチャレンジに。 ふかわがトップバッターで挑むが、結果は6.54秒と大オーバーで失敗。「消しておけばよかった」と責める中でファントム以外の1人が排除されることが決定。ファントムと目されるふかわに命乞いをする中で再び目隠しをする。 ファントムが全員が目隠しした後で誰を排除するか合図を出し、それを基にスタッフが外に連れ出す。 1分後、消えていたのはウエンツの姿だった… ウエンツ「絶対に矢作さんです。最後に失敗した時みんなが動揺する中、矢作さんだけ『誰を消そうかな』という顔をしていた。」 (なお、ファントムに排除された人間はファントムではない。) MISSION 2 「ほうきバランス」 全員一斉に竹ぼうきを片手の手のひらに乗せてバランスを取り、全員1分間立たせられればクリア。1人でも落とすと失敗。3回失敗すると1人が強制排除。 こちらもとりあえず1回やってみるが、スタートからバタバタしまくった森下が10秒行かずに失敗。「このミッションはできない」と語る森下に、ふかわは「どっちであろうとも今後を考えても必要ない」「クリアする意欲がない」と厳しく責め立てる。 「次失敗したら排除」という前提で2回目の挑戦。が、またしても森下がバタバタし6秒で失敗。「チームのために足手まといはいらない」とふかわが森下を排除しようとするが、泣き出した森下の姿に全員が動揺。結局全員が許しラストチャレンジへ。今度は森下は頑張るも和希が15秒で失敗し強制排除決定。 再び目隠しをしてから1分後、消えていたのは光浦の姿だった… 光浦「最後に余分な事言っちゃったから消されたんだ…小木・和希夫婦だ。」 実は直前に「小木・和希の2人が怪しい」と口走っていたのだった。 光浦「気づいたのかなぁ…」 MISSION 3 「ボックススタンディング」 箱の上に1分間全員乗っていられればクリア。1人でも落ちたら失敗。3回失敗すると1人が強制排除。 とりあえず1回挑戦しぬるっとスタート。が、ふかわが他のプレイヤーを引っ張りすぎたからが落下し失敗。 これに対し先ほどの反撃とばかりに森下がハンマーを取り出しふかわの人形を破壊しようとするが、ふかわが取り押さえたためハンマーはわずかに届かず失敗。先ほど執拗に責めた件を謝罪しこの場はなんとか収まる。 ただ、コツをつかんだため2回目の挑戦。ふかわが「くすぐったい」と動揺しながらも、安定して1分間乗り続けクリア。 初のミッションに喜ぶ面々だが、脱落者ルームでは「『とりあえず1個ぐらい成功させとこう』みたいのを考えるのはおぎやはぎしかいない。」と疑う。 MISSION 4 「漢字」 漢字の読み問題を5人連続で正解できればクリア。1人でも間違えたら失敗。3回失敗すると1人が強制排除。 1回目の挑戦は小木から。 小木 「台詞」→「せりふ」(正解) 森下 「翻弄」→「ほんろう」(正解) 和希 「殺陣」→「さつじん」(不正解 正 たて) あからさますぎる間違えに一気に疑惑が向く。思えばストップウォッチもほうきバランスも1回ずつ失敗している… ふかわの提案で疑いのかかった小木・和希を先頭にする形で2回目の挑戦。 小木に対し「西瓜」という問題が「なんだっけ…」と悩み「かぼちゃ」と答え不正解(正 すいか、かぼちゃは「南瓜」)。 ラストチャンスを前にここで1人は排除をしないといけない事を決める5人。 多数決を取るも人を疑う投票に中々手を上げづらい中、矢作は「小木の『どっちかな…』もわかる」「漢字が苦手なことも知っている」と擁護するが、和希の間違いはありえないと言及。それでも排除には躊躇うが、ふかわの勢いで排除を決める。 ふかわ「やさしさが時代を滅ぼすから。なまじ優しいと発展しないからね。滅亡を導くだけだから。」 最後まで小木は和希をかばい、和希も言い訳するもその最中にふかわは和希の人形を破壊。これで和希が強制排除される。 和希「でも漢字普通にわかんなかった…それで疑われて壊されちゃったんでショックですね…」 和希もファントムではなかった… 改めてラストチャンス。疑惑の残る小木を最後に回し挑戦。 森下 「鰯」→「いわし」(正解) ふかわ 「殺生」→「せっしょう」(正解) 矢作 「更迭」→「こうてつ」(正解) 順調に正解していく中、最後に小木が回るも、ふかわからここで小木の排除が提案される。 もしここで小木を排除すれば残る3人が正解しているためこのミッションはクリア。 もちろん小木を信用して任せることもできるが、失敗した時は自分の身が危ない… 「普段だったら小木の事を守りたいけれど、今回に限ってはファントムの小木ってあんま好きじゃない」と疑う矢作と「小木が答えるところを見てみたい」とかばう森下が対立するが、自分たちが上に立てる有利な状況であることを矢作に説得されて森下の手によって小木の人形を破壊。これで小木が強制排除される。 改めてこのミッションはクリアとなり、さらに残った3人の中にファントムがいなければゲーム終了となるが… 敗者ルームで出迎えられる小木だが… 小木「ファントムならこの部屋じゃないでしょ」 小木もファントムではなかった… そしてゲームは続行する… 残る3人の中にファントムがいるという事実にあからさまに動揺し始める矢作。 MISSION 5 「早口言葉」 1人ずつ「赤巻紙青巻紙黄巻紙」を3回連続で言えればクリア。噛んだり詰まったら失敗。3回連続失敗で1人排除される。 とりあえず森下から挑戦するも1回目で失敗。「できる気がしない」と諦めムードの中、セカンドチャレンジもふかわも1回目で失敗。が、怪しい人をことごとく排除したためファントムの推理もつかない。 ラストチャレンジも森下が惜しい所で失敗し強制排除決定。 誰も信じられない恐怖の状況で再び明かりが消える。 そして1分後。消えたのはふかわだった… 残った森下と矢作はお互いがファントムだと疑いあう… ふかわ「千里ちゃんはそうじゃないと信じたい。いるとしたら矢作だけであってほしい。」 MISSION 6 「マッチ点火」 全員一発でマッチを点火できればクリア。1人でも失敗するとやり直し。3回失敗で1人が強制排除される。 が、普通に考えれば2人残った時点でおかしい(人狼ゲームが残り人数の半数が人狼の時点で人狼側を消すことができないため人狼の勝利になるのと同じ理屈である)と混乱する矢作と、ゲームを進めようとする森下だが、お互いがファントムだと疑いあい口論となる。 とりあえずゲームに挑戦するが、矢作も森下もクリア。 そう。これでクリアである。 その瞬間呆然となる2人。 そういえばクリアにリーチがかかっている状況であり、ファントムであればここは絶対に失敗しなければいけない所のはずだが… 真相 呆然とする2人のもとに天の声が流れ出す。 それではここで誰がファントムだったかお教えしよう。 ファントム それは 幻影 もうお気づきかな?君たちが恐れ戦いたファントムなど初めから存在していなかったのだ。 お楽しみいただけたかな? その言葉を聞いた瞬間に罪悪感に苛まれる2人。 全員最初からクリアを目指して真剣に挑戦していたのだった。 しかし、「ファントム」という存在が「真剣にやったが故のミス」を疑い、咎め、罵り、あまつさえ自ら手にかけていったのだった… こうして最後まで生き残った矢作と森下が勝者となり、猜疑心を試した「究極の実験」は幕を閉じた。 エピローグ ウエンツ「最初に消された時スタッフさんに言われたのは『消されたのはクジで決まった』って。俺運無ぇな!」 光浦「小木の事をずっと、小木が『違う』というのに『うっせぇファントム』と。ずっと罵っていました。」 和希「人の事を疑う心って怖いなとつくづく思いました。」 小木「矢作に疑われたことがものすごいショックです。」 ふかわ「疑う心ってのがいかに恐ろしいものかというのを今日痛感しました。」 森下「小木さんの首を飛ばしてしまったことは申し訳ないです。」 矢作「小木は絶対クロです。どう考えたっておかしいですもん。絶対ねぇ、ファントムだと思うんだ今でも。」 改めて語るがこの番組は2005年4月1日に収録されている。 追記・修正はファントムを見つけ出した方がお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] エイプリルフールに相応しい記事 -- 名無しさん (2021-04-01 03 14 47) こういう心理実験のような面白い番組は海外だとよくあるが日本でも作られていたのか。実によく出来てる -- 名無しさん (2021-04-01 17 40 18) 面白い番組だなあ -- 名無しさん (2021-04-02 01 24 25) 当時は全く気付かなかったけどそもそもファントムの勝利条件が明言されてないのがおかしいのよね -- 名無しさん (2021-08-26 18 36 38)
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名前 変身して得る力 パラメータ上昇値 レアリティ ☆5 HP 5 メインスキル 単体復活(中) SP 4 AT 5 DF 5 IN 3 スカウト以外の入手法 -
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メニュー プリマス トップページ P:クエスト妨害キャラ P:採集妨害キャラ P:有害ギルド ガナブ G:迷惑キャラ G:有害ギルド ここを編集
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ゲーム終了後の死亡者リスト 時間 名前 殺害者 死亡作品 死因 凶器・決め技 終了後 ドブライ カイザーベリアル 211 あたしの、世界中の友達211 あたしの、いくつものアヤマチ 焼死 寿命管理 レム・カンナギ 響良牙 213 虹と太陽の丘(前編)213 虹と太陽の丘(後編) 蹴殺 エターナルレクイエム カタル 爆死 エターナルレクイエム(巻き添え) コダマ 涼邑零 214 時代 刺殺 銀狼剣 ガルム 冴島雷牙 刺殺 黄金剣 突入 吉良沢優 ニードル 218 BRIGHT STREAM(1)218 BRIGHT STREAM(2)218 BRIGHT STREAM(3)218 BRIGHT STREAM(4)218 BRIGHT STREAM(5) 刺殺 槍 美国織莉子 美国織莉子 自爆 オラクレイ ニードル 爆殺 オラクレイ 決戦 加頭順 左翔太郎フィリップ響良牙涼村暁 219 変身─ファイナルミッション─(1)219 変身─ファイナルミッション─(2)219 変身─ファイナルミッション─(3)219 変身─ファイナルミッション─(4)219 変身─ファイナルミッション─(5)219 変身─ファイナルミッション─(6)219 変身─ファイナルミッション─(7)219 変身─ファイナルミッション─(8)219 変身─ファイナルミッション─(9)219 変身─ファイナルミッション─(10) 消滅 ゴールデンエクストリームエターナルレクイエムシャイニングアタック カイザーベリアル 響良牙 貫殺 愛 響良牙 - 爆死? 爆発 涼村暁 消滅 【残り8人】 【ゲーム内の死者は、以上】 最期の言葉 名前 最期の言葉 ドブライ 「────スペースナイツよ……! 私の仲間とともに……この地球を……立て直せ……! 花を咲かせるんだ……この地球に……、過ちを繰り返させるな……ッ!」 レム・カンナギ 「残念、無念ッッッ!」 カタル 「──抹殺」 コダマ 「──ッ!?」 ガルム 「ぐっ……──メシア様ァッッ!!」 吉良沢優 「運命を変える」 美国織莉子 「オラクルレイ!」 ニードル 「何ッ!?」 加頭順 「い……やだ……死にたくない……誰か……たすけ……て………………」 カイザーベリアル 「──ぐああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」 響良牙 (ありがとう……つぼみ……ここに来てからの俺の、一番の、友達……!!) 涼村暁 「────俺たちって、やっぱり……決まりすぎだぜ!!!!!!!!!!!」 殺害数ランキング 順位 殺害者 殺害数 被害者 生存状況 スタンス 1位 ゴ・ガドル・バ 12人 ユーノ・スクライア、フェイト・テスタロッサ、園咲霧彦、溝呂木眞也、一条薫、明堂院いつき、結城丈二、ン・ガミオ・ゼダ、ラ・ドルド・グ、冴島鋼牙、フィリップ、ゴ・ガドル・バ 死亡 無差別 2位 スバル・ナカジマ 6人 シャンプー、ズ・ゴオマ・グ、鹿目まどか、高町なのは、池波流ノ介、ノーザ 死亡 対主催→洗脳 3位 涼村暁 5人 暁美ほむら、ン・ダグバ・ゼバ、黒岩省吾、ゴハット、加頭順 OVER THE TIME 優勝狙い→対主催 4位T 筋殻アクマロ 4人 本郷猛、志葉丈瑠、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター 死亡 特殊→優勝狙い 響良牙 レム・カンナギ、カタル、加頭順、カイザーベリアル ETERNAL 対主催 6位T 溝呂木眞也 3人 相羽ミユキ、照井竜、井坂深紅郎 死亡 扇動 大道克己 腑破十臓、月影ゆり、村雨良 死亡 無差別 モロトフ 巴マミ、東せつな、モロトフ 死亡 無差別 ン・ダグバ・ゼバ 山吹祈里、早乙女乱馬、西条凪 死亡 無差別 天道あかね 一文字隼人、美樹さやか、天道あかね 死亡 対主催→優勝狙い 10位T 美樹さやか 2人 美樹さやか、五代雄介 死亡 対主催→ファウスト 村雨良 筋殻アクマロ、大道克己 死亡 特殊(対象限定マーダー) ダークプリキュア アインハルト・ストラトス、梅盛源太 死亡 優勝狙い→対主催 バラゴ 泉京水、相羽タカヤ 死亡 無差別 血祭ドウコク 姫矢准、筋殻アクマロ 生還 脱出派マーダー 孤門一輝 ラ・バルバ・デ、石堀光彦 生還 対主催 石堀光彦 桃園ラブ、沖一也 死亡 対主催→無差別 涼邑零 暗黒騎士キバの鎧、コダマ 生還 対主催 美国織莉子 美国織莉子、ニードル 死亡 主催陣営→対主催 20位T 月影ゆり 1人 来海えりか 死亡 優勝狙い 園咲冴子 速水克彦 死亡 対主催→洗脳 三影英介 園咲冴子 死亡 無差別 一文字隼人 三影英介 死亡 対主催 志葉丈瑠 パンスト太郎 死亡 無差別 相羽シンヤ 相羽シンヤ 死亡 特殊(対象限定マーダー) サラマンダー男爵 八宝斎 死亡 主催陣営 梅盛源太 アインハルト・ストラトス 死亡 対主催 冴島鋼牙 バラゴ 死亡 対主催 ン・ガミオ・ゼダ ダークプリキュア 死亡 ドブライ ランボス 死亡 主催陣営 プレシア・テスタロッサ プレシア・テスタロッサ 死亡 主催陣営 呉キリカ 呉キリカ 死亡 主催陣営 外道シンケンレッド 筋殻アクマロ 生還 家臣 加頭順 サラマンダー男爵 死亡 主催陣営 カイザーベリアル ドブライ 死亡 主催者 ニードル 吉良沢優 死亡 主催陣営 左翔太郎 加頭順 生還 対主催 フィリップ 加頭順 死亡 対主催 第一回放送まで 第二回放送まで 第三回放送まで 第四回放送まで 第五回放送まで ゲーム終了まで
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【園咲冴子】 [名前]園咲冴子(そのざき-さえこ) [出典]仮面ライダーW [異名]タブー・ドーパント、ナスカ・ドーパント [俳優]生井亜実 [性別/年齢]女性/30歳 [一人称]私 [二人称]あなた [三人称] 「まさか忘れてないわよね?私の怖さ」 タブー・ドーパントに変身する園咲家の長女。ミュージアム傘下でガイアメモリを製造販売する会社「ディガル・コーポレーション」の社長でもある。 父・琉兵衛には幼少期からスパルタ教育を受け、対照的に妹である若菜は奔放に育てられていたため、彼女を憎んでいる。 そんな感じで家族仲は極めて悪かったが、妻という立場でありながら、ミュージアムに反逆した霧彦のことは殺害している。 井坂と出会い、彼を利用しようとしていたが、井坂の本心を聞いてからは園咲家を裏切る決意をし、離反。しかし、すぐに井坂が死亡したこともあり、一人でミュージアムに追われることになる。 その際、霧彦が遺したナスカメモリを手に入れており、霧彦以上に高い適合率を叩きだしてRナスカドーパントへと変身できるようになった。 ミュージアムの追跡を受ける中で、加頭順と出会い、彼の好意によって保護されたが、自分の力でミュージアムに復讐をしたいという思いから拒否している。 ナスカメモリをブレイクされ、父も死亡した後は、翔太郎たちに協力し始め、財団Xや加頭、チャーミングレイブンの存在を彼に教えた。 その後も加頭に反逆し続け、最期には彼から若菜を庇って死亡した。 [外見] 中の人の身長は158cmだが、基本はハイヒールを履いているため、実際はもっと大きく見えるだろう。 長い茶髪を、毎回全く違う髪型にしているため、髪型は一定していない。基本的に、豪奢で威厳のある髪型が多い。服装も同様で、ブランド品と思われる服で統一されている。 女性らしく、イヤリングやネックレスなどのアクセサリーを身に着けていることも多い。 また、胸が大きく、谷間を露出するような服を着ていることも多い。 [性格] 他者を利用することを厭わない利己的な性格で、無能な者や使えない者は全て切り捨て、自分の利益にならない話は聞きもしない人間である。 夫を殺したときも一切躊躇いはなかった冷徹な性格だったが、しばらく後にそれを後悔するような発言もしている。 幼い頃から、後継ぎのためにスパルタ教育を受けてきたため、父や妹を憎んでおり、それが後半での行動につながった。また、その一方で本来は僅かでも優しい部分があったらしく、最期の行動にもつながっている。 プライドが高く、自分より下位のものに偉そうにされることや、人の助けを乞うことは嫌う。 負けず嫌いでもあり、とにかく優秀であり続けるための努力を強いられてきたため、自由に育てられた人間や能力がないまま育った人間への嫉妬も強い。 [他キャラとの関係] 左翔太郎や照井竜は当初は敵だったが、最終的に彼らに協力的な態度を取ることになった。 園咲霧彦は夫だが、彼に対する愛は稀薄で、早くも愛想を尽かしている。一方、当初した井坂深紅郎は互いの本心を知り合ったことで、愛し合うようになり、ともにミュージアムを離反することになった。 大道克己、泉京水は、風都を強襲したテロリストとして情報を得ている可能性が高い。 [能力] 高い経営能力や、知能を持っている。 また、戦闘能力も高く、タブーメモリやナスカメモリとの適合率も良い。 ナスカメモリに関しては、当初の所有者である園咲霧彦よりも高い適合率で、レベル3ことRナスカドーパントに変身可能である。 以下、変身ロワにおけるネタバレを含む +開示する 園咲冴子の本ロワにおける動向 基本情報 初登場 022 Iを求めて/怒れる女と男 最終登場 047 魔獣 参戦時期 仮面ライダーW35話終了後 スタンス 対主催→洗脳マーダー 変身回数 タブー・ドーパント(1) 所持品 タブーメモリ&ガイアドライバー 支給品 上条恭介のバイオリン、配置アイテムネタバレマップ、ハートリンクメーカー 参加者関係表(最終認識) キャラ名 状態 関係 呼び名 本名 初遭遇話 生死認識 左翔太郎 敵対 元の世界の敵(変身前未認識?) 未遭遇 照井竜 井坂深紅郎 友好 元の世界の仲間 井坂先生 園咲霧彦 中立 元夫だけどどうでもいい 霧彦さん 速水克彦 友好? 共に行動する→殺害する 速水さん 022 Iを求めて/怒れる女と男 バラゴ 服従 魔弾で撃たれる 047 魔獣 一文字隼人 敵対 交戦する 三影英介 殺害される 名前のみの情報 キャラ名 状態 情報 情報伝達者 説明 第一回放送まで タブー・ドーパントに変身する敵幹部の一人。(物語後半ではナスカに変身する) 今回は井坂時代からの参戦であり、彼に絶大な信頼を寄せている。霧彦については名簿を見て一瞬驚きはしたが、どうでもいいの一言で片づけた。尻彦マジカワイソス。 そんな彼女が出会ったのは速水克彦。彼を利用しようと目論むも、そのうざすぎるキャラに困惑を隠せないでいた。 彼の暑苦しいキャラにイライラしつつ、「誰かこいつ何とかしてくれ」なんて思ってたら、それを叶えてくれる救世主(?)が現れた。暗黒騎士キバことバラゴである。彼に魔弾を撃ち込まれた冴子はホラー化し、タブー・ドーパントに変身して速水を殺害した。やったね冴子ちゃん!願いがかなったよ! バラゴの指示により続けて一文字隼人を襲撃。必殺のライダーキックを受けてなお立ち上がるも、続けて現れた三影の砲撃を受けて消滅した。 終始速水に振り回されっぱなしの哀れな生涯であった。 称号:【ムシャクシャしてやった。後悔は(ry】
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魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ 現行スレ 魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ6 まとめ http //www15.atwiki.jp/majokkoxheroine/